昭和音楽芸術学院の「電話」・「子供と呪文」 ~ 若い人たちのオペラ
2002/3/10

公演プログラムの表紙

若い人たちのオペラに行ってきた。これは、藤原歌劇団の裾野とも言える日本オペラ振興会オペラ歌手育成部の修了オペラアンサンブル公演。場所は小田急新百合ヶ丘の昭和音楽芸術学院。

ここは、駅前のビルの5階にあるスタジオ、300人弱の収容人数だ。新国立劇場の小劇場より小振り、それでもちゃんとした舞台とひな壇の客席がある。惜しむらくはオーケストラがないこと。1年前まで大阪にいて、大阪音楽大学のカレッジオペラハウスの常連だったが、あちらでは専属のオーケストラがあった。いずれにせよ、大劇場のレパートリーから漏れる現代ものを聴こうとすると、こまめにカバーする必要がある。

いつも天井桟敷の私だけど、自由席となれば、かぶりつき二列目中央に陣取る。開演のベルの代わりに、小学校の用務員さんが鳴らしていたような、カラーン・コローンという鐘と言うのがいいなあ。

さて、最初は20分強の「電話」。むかし「アマールと夜の訪問者」を、エイブリー・フィッシャー・ホールで観たことがあり、私のメノッティ体験ははそれだけ。もちろんこの作品も初めてだ。

美しいメロディと電話での会話を見事に融合させ、シンフォニーを思わせる構成感があるオペラ、聴けばメノッティの天才はすぐに判る。何よりイタリア語の自然さ、明晰さが、歌うことで全く失わなれていないことに驚く。字幕なしで歌詞がほとんど理解できたのは、私には初めての経験だ。そんなことを感じさせてくれたのも、出演者二人の歌と演技が、とても素晴らしかったから。ちょっと年の差があって、婚約者と言うよりも援助交際風だったが…

ほとんど、一人舞台と言ってもいい大野康子さん、チャーミングでヴィヴィドなヒロイン、素敵だった。最後のオチでヒロインが電話番号を婚約者に教えるとき、zero-nove-zeroと、090携帯電話の番号だったのは、とても可笑しかった。桁数が11桁に足りないのはご愛敬だけど、なかなかウィットが感じられたアレンジ。この作品には確かピアノ版もあったはずで、バックのピアノと二台のエレクトーンも全く違和感がなかった。

その点、後半のラヴェルは、この伴奏では苦しいなあ。エレクトーンで楽器を模していたとは言え、オーケストラの雄弁さにはかなわない。少し前、高関健指揮の大阪センチュリー交響楽団の定期演奏会で、演奏会形式でこの作品を聴いたので、そのときのオーケストラの音を思い浮かべながら聴いていた。

でも、演奏会形式ではない舞台のメリットも実感できた。私はフランス語は判らないので、訳詞上演で歌詞が理解できること、衣装・振付でプロットが理解しやすいこと、何よりお話として楽しめることだろう。

歌手については、修了公演だけにほとんど総出演。主役の久居史子さんは熱演、そのほかの人は出番が短いので、評価はしにくいが何人かに光るものを感じた。この先、檜舞台に立つかも知れない人、コーラスの一員となる人、子供に歌を教えることになる人、様々だと思う。

発表会として聴くのではなく、オペラ公演として聴くのもどうかと思わなくもないが、正真正銘のプロでなくても2000円の木戸銭を取る以上、それなりの覚悟が必要だ。何と言っても、身内以外の聴衆を前にして、初めて真価が問われることになるのだから…。そんなことを言いながらも、正直とても楽しめた公演だった。

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