新国立劇場「ワルキューレ」 ~ 愉快なワーグナー
2002/4/6

「ワルキューレ」、一日置いてBキャストも観る。チケット直前入手が多い私だけど、これは事前に買っていた。

ヴォータンのドニー・レイ・アルバートは、私はジョンソンよりも気に入った。第二幕の長丁場も聴けた。
 ブリュンヒルデのスーザン・ブロック、リンダ・ワトソンよりもだいぶ落ちるような感じ。かなり無理をした声の出し方のような気がする。だから聴いていて魅力に欠ける。長続きしないんじゃないかしら。
 フリッカの小山由美さん、とても立派な歌唱。これまで聴いたなかでは一番かな。しかし、藤村実穂子さんを聴いたあとでは…
 フンディングの長谷川顕さん、最初はなかなかいいなと思ったが、すぐに息切れという感じ。ドイツ語はわからないが、耳で感じる限りでは音の違和感もかなり。
 マッキンタイアもいまいち、敵役が存在感がないとドラマが面白くならない。
 ジークムントのアラン・ウッドロー、スミスとの差はとても大きい。中声部の声の強さは充分だが、高いところ、弱いところ、抒情的なところでは、とたんに駄目な感じになる。

ジークリンデの蔵野蘭子さん、本日の最大の収穫か。歌い出しのしっとりとした情感、あっ、こっちがAキャストと瞬間的に思う。スーザン・アンソニーで気になった、声域によって音質が極端に変わるという欠点がなく、安心して音楽に浸れる。それに、驚いたのは蔵野さんの演技の素晴らしさ。本当に同じ演出なのかと、思えるほど。

第一幕が開いたとき、彼女は巨大なテーブルの上に横たわっているが、すぐに羽織っていたものを取り、薄もの一枚に。アンソニーはずっと長い時間、上に着ていたような…
 ジークムントとの愛のシーン、彼女がテーブルの上で動くとき、あんなに端まで転がったら落っこちちゃうよ、とさえ思った。テーブルの端ギリギリまで動き、長い髪を下に垂らす、まるでメリザンド。ひょっとして、演出家はそのパロディを意図しているのかな。だとすれば、彼女はとても忠実な演技をしているということに。体型的なこともあるのだろうが、動きがとてもスムース。ジークムントとのからみも、一昨日にはなかった濃厚なエロスを感じた。

記憶が定かではないが、一昨日のジークムントの衣装は、あんなに露出気味だったかなあ。ウッドローはマッチョタイプ、タンクトップの上半身は、まるで重量挙げ選手か体操選手のよう。ひょっとしたら、この兄妹コンビについては、歌手の特性にあわせて二種類の演出(衣装)を用意したということか(トゥーランドットもそうだったし)。

あのワルキューレたちの演出で、歌って演技できるのは、オール日本人で揃えないと無理だろう。指揮・オーケストラの印象は変わらない。

演出については賛否両論があるようだけど、私はポジティブ。初めてワーグナーを観るという友人の奥さん(急遽ピンチヒッター)とご一緒したが、「とっても楽しい、病みつきになりそう。続きも絶対に観たい」ということだった。この方、初めて観たオペラがザルツブルグの「モーゼとアロン」のとんでもない演出だったそうなので、並みのオペラファンと同列ではない。

最高神ヴォータンなんて言っても、やってることは極悪非道でゴロツキ同然だし、どんな演出でも許されそうだ。強姦、実子殺害幇助に遺棄、詐欺・契約不履行、殺人教唆…、これだけ揃うと、人間なら塀の中は間違いない。
 こういう言い方、クナ大先生はともかく、「真面目な」ワグネリアンなら青筋立てそうだ。でも、こういう楽しみ方が出来るようになったのも、ようやくワーグナーの呪縛が解けてきたからだろうか。それとも、気軽に5000円ちょっとで二日間も観られるようになったからか(ま、その分税金払ってるけど)。

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