新国立劇場「トスカ」 ~ 天使像に再会
2002/5/8

例によって、4階4列中央、正真正銘の天井桟敷で観る。
 とかく激烈で息つく暇がなく、自宅では聴く気になれないし、さりとて舞台でこれはという公演に巡り会うことも少ないのが「トスカ」、というのが私のこれまでの印象だ。

公演のチラシ

プッチーニは大概がそうだが、トスカは演劇的にはとても良くできた作品だし、美しい歌にも事欠かない。でも、心底好きになれない。だから、この公演も、私はちょっと醒めた見方になる。

第2幕の出来は大変素晴らしいもの。トスカ役のノルマ・ファンティー二の「歌に生き、恋に生き」はまさに絶唱。スカルピアが暫時舞台上から消えるエアポケットのような休止の後のこのアリア、これほど心に切実に響いたのは初めてかなあ。
 二人の対決の場面もゾクゾクする。Quanto? il prezzo!とトスカが畳みかける台詞、凄みがある。

スカルピアのカルロ・グエルフィは大きな体躯からは想像できないハイバリトン的な声質だ。第1幕では違和感を感じたが、この対決の場面は逆にそれが良いほうに作用した感じで、緊張感を高めている。

初めて聴くファンティー二は声に力がある。カヴァラドッシとの二重唱では、音価いっぱいいっぱい、はみ出し気味で声を張るのは私は好きになれない。誇示しなくても充分に素晴らしさは判るし、プッチーニだって過剰にならなくても効果が出るように書いているから、かえって彼女の歌い方はマイナスじゃないかな。アリアがあれだけ素晴らしかったのに、ちょっと残念なところだ。

一方のヴィチェンツォ・ラ・スコーラは、逆にレガートをあまりかけない鋭角的な歌い方だと感じた。聴く側の好みも分かれそうだし、役柄による適否があるように思う。ヴェルディだと歌い手の力量の差が極端に出るが、プッチーニはそうでもないし、今回の私の見方はニュートラルかなあ。

オーケストラは昨年のことを思えば雲泥の差、指揮者(アルベルト・ヴェロネージ)の功績なのか、ドラマに寄り添っていたのが判る。「ドン・カルロ」とその裏の定期で、会場で関係者に直接苦言を呈した私としては嬉しい限り(東フィルの会員更新しなかったのは早計だったかな)。

新国立劇場のトスカは初めて、演出・装置に結構お金かけている。第1幕、第3幕の仕掛けはオッという感じだけど、装置の動きばかり目立ち、舞台上の動きとの必然性があまり感じられない。演出に一工夫ほしいところだ。

1月に新国立劇場のバックステージツアーに参加したとき、舞台裏にはサンタンジェロ城の天使像が置かれていた。それを今度は客席から見る。しかし、さすがに天井桟敷、大きくてこれが全部見えないとはね。

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