ボローニャ歌劇場「セヴィリアの理髪師」 ~ 無益じゃない骨折り
2002/5/31
「今日は帰りに床屋ですか?」と、会社で朝一番に後輩が尋ねてきた。
「ん、いや、あの、その、、、スペインは遠いしなあ」 うっ、読まれている。
「ま、夕方になったら、虫が騒いでくるかも知れないなあ」
と、やっぱり騒いできたオペラの虫。しょうがない、前々日に続き、チケットレス出撃だあ。ただ一人カードを掲げて待つ私の前に、女神が現れたのは18時27分。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
ただ、それだけ! ああ、大和撫子の潔さ!
今日は、何と言ってもファン・ディエゴ・フローレス。まあ、大変な歌手だこと。幕切れ直前の大アリア、ありゃいったい何だ。あんな曲、これまで聴いたことない。
そうか、そう言えば、どこかでアリアを復活させるとか書いてあったような、これのこと?(プログラムは買わない人間なので…)
幕開けのレッジェーロからの差は大きい、堂々たる最後の歌。こりゃ、一人のテノールでは普通は歌えない。普段、あまり声はあげない私ですが、思わずBravo!!
びわ湖で聴いた友だちの評価は厳しかったが、私は全く正反対。日によって当然に調子は変わるし、ホールも違う。こんなゾクゾクするアルマヴィーヴァ、聴いたことない。
ヴェッセリーナ・カサロヴァは初めて、と言ってもデビュー当時から大注目の歌手、CDが出るたびに、ほとんど買ったんじゃないかな。彼女が日本でオペラの舞台に立つんだから、ワクワク。生で聴くと、低音は思ったよりも深く、声の量感は思ったよりもある。舞台映えがするし、演技もチャーミング、ちょっと予想した感じと違ったので戸惑いがあったが、充分に満足。有名なUna voce poco fa(つい今の歌声は) では、私は何故か中間のところの ma(でも)という部分の微妙なポーズが好きなのだが、彼女は無造作に歌ってしまったのは残念だなあ。まだ上昇中の歌手だから、つい勢いに任せるところがあるのかしら。
レオ・ヌッチ、フィガロとしてはちょっと老けているが、役者振りを示してくれたなあという感じ、出番では存在感を示すものの、若い恋人たちの脇役に徹していたところに好感が持てる。声の力という点では、全盛期は過ぎたことが判るが…
しかし、この他の歌手も含め、アンサンブルが素敵だ。第一幕フィナーレのア・カペラの重唱から幕切れまでの素晴らしさ。他の掛け合いの部分も、どこをとっても楽しく美しい。
オーケストラは、序曲では響きが薄い感じで、やはりびわ湖ホールとは比ぶべくもないかと思ったが、幕が開いた後は、だんだんよくなる。ダニエレ・ガッティのテンポがいい。どの箇所をとっても、「間違った」テンポをとることがない。これは、実際には「本当に」少ないこと。私が敬愛するトゥリオ・セラフィンの演奏(もちろんレコーディングですが)を思い出した。