「フィデーリオ」さいたま芸術劇場 ~ これは確かに贅沢!
2002/6/16

公演のチラシ

6月に入ってからコンサート会場で、「奥行き37m、三面半の舞台を生かし切った本格的オペラ公演を680人で観る贅沢」という黄色いザラ紙のチラシをよく見かけた。立派なチラシが在庫切れになったか、まだ空席があるので最後の客寄せなのか、私には判断がつきかねるが、そんな小さい劇場でやるとは、不覚にも知らなかった(実はこれが大ホール)。

連れとの会話。
 「さいたま芸術劇場って、どこにありまんねん?」
 駅は与野本町らしいで」
 「そりゃどこでんねん?埼京線かいな?」

以前、7年間、埼玉県民だった私も、ここは初めて。そう言えば、あのころ、新幹線の近くで何か工事していたような…

住宅街を抜けて10分足らず、到着しました。何となく、劇場の大きさ、駅からのアプローチ、場所柄とか、大阪でお馴染みのカレッジオペラハウス(豊中市の大阪音楽大学構内、日本初のオペラ専用劇場)とイメージが近い。

「チラシに偽りなし」というのが、今日の印象。つまらないオペラの代表格「フィデーリオ」(ベートーベン作曲でなければ残っていない)だが、こういう練られたアンサンブルだと意外に聴けるという感じがする。前日の新国立劇場「カルメン」で不満だったことが、今日は満たされた。

レオノーレのガフリエレ・マリア・ロンゲ、ロッコのハンス・チャマーは文句なし。フロレスタンのアンドラーシュ・モルナールは「ぼちぼちでんなあ」という感じ(まあ、主役とは言えないし)。声の密度が薄い。

幕開きの吉田浩之、釜洞祐子のデュエットと、釜洞祐子のソロ、続くロンゲ、チャマーが加わった四重唱。ああ、今日はオペラを聴けると思った。

何しろ、大阪では、釜洞さんの追っかけで、京都の某女子大主催の身内だけのコンサートにまで潜り込んでいた私。ドイツ語を解さない私の耳にも、いつもながら、釜洞さんのドイツ語は本当に美しく響きます。以前、NHKで放映した過去の名歌手の録画の最後に、釜洞さんが「歌の翼に」をスタジオライブで歌ったのが忘れられない。

二階バルコニーの一番舞台寄りの席(舞台に花束を投げられる…判っていれば用意したかも)、ピットの真上で舞台の歌がダイレクトにガンガン届く。最初、私は幕間に1階後方の空席に移ろうかなと思っていたが、結局最後までバルコニーで聴いた。

開演5分前、突然後ろからファンファーレが鳴ったのにはびっくり。振り返ると、扉からトランペットの朝顔が。無粋なベルやチャイムより、ずっと洒落ている。もちろん、第二幕の中で吹かれるフレーズだ。会場の明かりが落ちる時には、再度ファンファーレが。今度はピットのソロが引き継ぐという趣向。これはいいなあ。新国立劇場でもやればいいのに。時節柄、ジャパン・ブルーのユニフォームで、「アイーダ」の「凱旋行進曲」だったりして。

秋山和慶指揮の東京交響楽団は、あまりにも近くで聴いたので、アラも聞こえたが、水準以上のものだと思う。秋山さんが振るときには、安心して聴ける。

演出は西澤敬一、最後に登場人物がみんな服を脱ぎ捨てる(上着だけ)のは何の意味か、ピッツァロが合唱と手に手を取って仲良く歌うのは解せないし、幕切れにフランス国旗のトリコロールの布が上から降ってくるのも不可解(舞台はスペインのはずなのに)。

何年ぶりかの再演なので、初演時に能書きがあって、私が知らないだけかもしれないが…

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