佐藤美枝子&水口聡 ~ なんだか対照的、あべこべ
2014/4/24

都民劇場の主催公演に行くのは本当に久しぶり、何年ぶりかなあ。プログラム冊子は昔と全然変わっていないと、妙なところに感心。

公演のチラシ

デュオ・リサイタルと称しているが、入れ替わりで歌って、デュエットはルチアの一曲だけ(アンコールの「乾杯の歌」は別にして)。したがって、二人の歌の特質が比較の見地でよく判る。

佐藤さんはコンクール入賞直後の大阪国際フェスティバルでのリサイタル以来、何度も聴いているのに対して、水口さんは初めて。この二人の歌は対照的、そして私の反応も対照的。

佐藤さんでは聴いたことのない「トラヴィアータ」の大アリア(当初のプログラムにはなく差し替え)、アンコールの「つばめ」のアリア、これは拍手喝采、私としては珍しく、この二曲では「Brava!」の声が出る。

特に、「ドレッタの美しい夢」は最高。見事に伸びる声、しかも明晰な言葉、これはリリックなアリアだと思っていたのに、いやあ、こりゃ大アリアだわ。

「ああ、そは彼の人か~花から花へ」も予想以上の歌だった。後半のカヴァレッタの華々しさは想像出来るが、カヴァテイーナでこれだけの表現力が身についているとは…恐れ入りました。プログラムを差し替えるだけのことはある。

「ルチア」の「狂乱の場」は少し長く感じてしまった。ピアノ伴奏(ヴィンチェンツォ・スカレーラ)のせいもあるかな。オーケストラを付けろとは言わないが、この曲だけでもフルートを付けてほしい。ピアノでは掛け合いにならない。

あと、佐藤さんが歌ったのは、「ラクメ」の「鐘の歌」、「リゴレット」の「慕わしい人の名は」、いずれも安定したものだった。

水口さんが歌ったのは、「ルイーザ・ミラー」の「穏やかな夜には」、「アルルの女」の「フェデリーコの嘆き」、「トゥーランドット」の「誰も寝てはならぬ」、「ルチア」の「祖先の墓よ」というもの。

こんなことを書くと、ファンの人たちに袋ただきになりそうだけど、私は拍手する気にもなれなかった。
 バリトンからスタートしただけに、低い部分でも充実した響き、そして高音の輝かしさも充分、得難いテノールの逸材だと思う。しかし…

致命的なことは、言葉に対する無頓着さ、無神経さだ。ルネ・フレミングのテノール版という感じかなあ。ソプラノ歌手だと、こういう人は珍しくないのだが、テノールでこれではいただけない。あまりに響きに意識が行き過ぎている。それはそれで美しいのだが、本人も聴く側も、それで満足していては駄目じゃないかなあ。極論すれば、美しい響きならチェロ(トランペットでもいいが)を聴けばいいと言うことだって…。

その言葉(言語)が判る、判らないということとではない、歌詞が付いているのだから、適当に誤魔化さずきちんと発音しないことにはダメだ。悪癖を直すのは大変だけど、これは本人が気づいて心がければ出来ることだ。響きを少し犠牲にしても、言葉の明晰さに配慮すれば、エンターティンメントからアートの域に入るのに。せっかくの逸材、この程度で終わってほしくないと思う。

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