広上淳一のドン・ジョヴァンニ ~ てんこ盛り、超お得
2002/6/24

公演のチラシ

これは、コンサートふたつ相当、しかも無料ご招待、ビール飲み放題、そして演奏も二重丸。

しばらく前の月曜日、「清教徒」のときに一緒にチケットレス突撃した後輩が、朝日新聞を私に見せて言う。

「この平野公崇さんのサックス、すごいですよ。だまされたと思って一度聴いてください。このあいだ、アサヒビールの招待で行って、びっくりしましたよ。坂田明もあきれてました!」
「あの隅田川沿いの金色ウンチのビルで聴いたの」
「ええ、あそこで。よくコンサートがあって行くんですよ。ビール一杯ついてます」
「へえ、そんなのあるの。でも、このコンサートなら知ってるよ。チケットは買ってないけど。森麻季さんが出るから、行ってもいいかなあと思ってたんだけど。なになに、ペアでご招待か、よっしゃあ、気合い入れて葉書出すぞおー」

そして、森麻季さんへの思いの丈を書き連ねた私はめでたく当選、後輩は落選、二人してオーチャードに出かける(応募葉書はオマケのコメントが決め手、所詮は人間が選ぶことだもの…)。

しかしまあ、破天荒なコンサート、どう見ても、これはふたつのコンサートだ。

前半のプログラム。
  平野公崇「インパルス・オブ・"リード フェイズ"」
  ドビュッシー「サクソフォーンのための狂詩曲」
  イベール「アルト・サクソフォーンと11の楽器のための室内小協奏曲」

 後半のプログラム。
  モーツァルト「ドン・ジョヴァンニ」ハイライト。

サクソフォーンはクラシックではマイナーな楽器だし、どれも初めて耳にする曲ばかり。最初の曲はソプラノ、後の二曲はアルト。大変なテクニックだということは判るし、イベールのカデンツァのところなんて、一番低い音から、一番高い音まで使っていたんじゃないかしら。ドビュッシーではオーケストラの編成も大きいので、中音域はオーケストラに埋もれるような感じもあったが、低音域の力強さは大変なもの。これだけの奏者なのだから、第一線の作曲家がもっと曲を書いてあげればいいのになあ。そんなこともあって、この楽器の奏者は必然的にクロスオーバーになる。

さて、ドン・ジョヴァンニ、序曲の出だしから惹きつけられる。そして、選曲にも工夫がある。

3時間を1時間足らずに凝縮するのですから大変だが、有名曲を並べるのではなく思い切ってカットし、採り上げる曲はレチタティーヴォから入る。(上手いとは言えないが)チェンバロを広上氏が務め、オケの入りのタイミングで後ろの指揮台に上る。歌手陣もある程度の演技付き、衣装付き。マゼット役の黒木純さんの手を森麻季さんが胸に導くという役得も…。

主役の稲垣俊也さんは、フィガロの時は少し荒さが気になったが、今日は不満はない。なかなかの伊達男ぶりです。

ドンナ・アンナの佐々木典子さんの素晴らしいアリア、出番は重唱だけだった木下美穂子さんのドンナ・エルヴィーラもしっとりとした好感の持てる歌だった。

お目当ての森麻季さんは、言わずもがな(衣装も素敵だ)。私はこの人の声を聴くと、いつも幸せな気持ちになる。大きな声ではないが、アンサンブルの中でも、オーケストラの総奏の中でもくっきり聞こえるのは不思議だ。

広上氏は長期休養明けの復帰とか、私は初めてなので、これまでの演奏は知らないが、復帰にかける意欲は並々ならぬものがあると見受けた。

ところで、このひと、指輪を何個しているんだろう。オペラグラスで見ていると両手の各指に光るものが…ありゃ何だろう。指輪じゃないのかなあ?パンチ力増強のためだとすると、おそろしー。

私は幸いに招待券が当たったが、この公演は確かe-plusでも直前に半額セールをしていたようだ。それでも三階には空席が目立った。受付の朝日新聞の係の人は100枚ではきかないチケットの束を持っていたし…。二日間の公演だからか、小澤、ゲルギエフと、ドン・ジョヴァンニが続いたからか、これだけの内容のコンサートにしては残念なところ。

サッポロビールがスポンサーなので、ホワイエではビール、ソフトドリンク飲み放題。開演前に、それこそ駆けつけ一杯、休憩時間には一番乗りで、アナウンスがあるまで二人で飲み続けという始末。「いやあ、いいコンサートですねえ」とは、後輩の弁。

社員を動員すれば空席を埋めることぐらい造作もなく出来たと思うが、会場の雰囲気が悪くなるのは目に見えているし、それをしなかったスポンサーに好感を持つつ。私はずっと、黒ラベルですよ。

ジャンルのトップメニューに戻る
inserted by FC2 system