それなりの楽しみかた ~ 三大テノール公演
2002/6/27

コンサート、オペラの楽しみは、チケット入手の時から始まる。その伝で行くなら、今回は入手後すぐに本番という慌ただしさだった。

6月も下旬の朝、だいぶ前に大阪で一緒に仕事をした後輩が、私の席に現れた。
「ちょっと。いい話ですよ」
「なになに」
「今週の木曜日、空いています?」
「27日? うん、特に予定はないけど…」
「これ、行きませんか? 到来物ですけど」
「ひゃあ、こ、これはっ!!」
横浜アリーナ、前から9列目。
「い、いっ、い、いぐー」

スタジアムでPA使ってやるのに、最低10000円。うーん、こりゃパス、テレビ鑑賞だなあ。チケットもらったら、喜んで行きますけどとか言っていたら、それが現実に!
 いやあ、持つべきものは、良き後輩、良き取引先。こんど、彼には一度おごらなくっちゃ。

もともと、「関係ないや」と思っていたので、恥ずかしながら、横浜アリーナというのは、ワールドカップの決勝戦をやるところだろう、なんて思っていた。「梅雨どきだし、雨が降ったら困るなあ」、なんて…
 よく考えたら、そんな大事な一戦の前に、グラウンドを使うなんてことは、ないよなあ。

件の後輩と脱兎のごとく会社を出て、タクシーで東京駅へ。帰省単身赴任者御用達の大丸地下でお弁当を購入し、ひかり自由席に。新横浜駅ホームの待合室で、先ずは、ゆっくりと腹ごしらえとなる。
「アンコールとかで、結構遅くなりそうだなあ、終わりは10時かな」
「そんなに、長いんですか。私、寝不足で起きてる自信ないですよ」
「鼾が出たら起こしてあげるから、大丈夫だよ」
「よろしくお願いします」

バカな心配をしていたが、横浜アリーナ、ちゃんと屋根があった。
「ああ、大阪城ホールみたいなもんやな」
 チケットと一緒にもらったプログラム引換券で、超特大サイズの美麗冊子を頂戴する。
「こんなん、あと、困るでえ。本棚に立たへんやんか」

さて、今日のプログラムは…
「だいたい毎度のパターンやな。韓国と日本の歌を入れてるところが、ちょっとちゃうかな。三人のメインの劇場レパートリーはこの5曲だけや。しかしまあ、短い曲ばっかり集めたなあ。これなんか1分ちょっとやでえ(プッチーニ「西部の娘」の「やがて来る自由の日」)」

前から9列目とは言え、広い会場のこと、かなりサイドの位置。
「なかなか始まりませんねえ。女性トイレ大混雑でしたもんねえ。あれ、オーケストラの人、一人遅刻してますやん」
「ちゃうちゃう、あれはコンサートマスターゆうて、もったいぶって後から出てくるんや。これからチューニングして、ぼちぼち始まるでえ」

と言うことで、オープニングの「ローマの謝肉祭」。
「あっちゃー、なんやこりゃ」
 舞台からの直接音と頭上の巨大スピーカーの音が…
「いったい、どっちを聴いたらええんや」

慣れというものは恐ろしいもので、それとも私の耳がいい加減なのか、カレーラスが登場し、歌い始めたら、あまり気にならなくなる(「禁じられた音楽」)。
 続くドミンゴの「やがて来る自由の日」、あんまり短かすぎるのでサービス、だいぶ前のレチタティーヴォから入りました。

そして、出たあ、パヴァロッティ、「妙なる調和」。
 直前の引退(予告)発表もあってか、三人の中では一番声援のボルテージが高い。CNNのインタビュー記事によれば、2005年10月に引退ということだけでなく、自伝の中でも触れられていた不倫話が、子供より年下の女性との再婚という決着を見るようだ。家庭を離れる時間が長い単身赴任者にとって、身につまされる話。
 なに、おまえは三大テノールみたいに稼ぐ訳じゃないし、モテる訳でもないだろうって…はい、そのとおり。

休憩時間、二階のバーで招待状封筒を持参するとドリンクサービスというので、行ってみたら、女性トイレに負けず劣らず長蛇の列。
「ははあ、スポンサー殿、相当ばらまきましたなあ」

さて、歌の話、私の率直な印象は…

カレーラス。
 三人で歌うときには、やけに力んでしまうのはいつものことだが、ソロが思ったよりも良かった。復帰後の歌には、あまりいい印象を持っていなかったが、これならチケットを持っている「スライ」、期待できそう。

ドミンゴ。
 頑張って、高音を出していた。悪くない。「オテロ」は、ニューヨークとウィーンでこれまで三回聴いているし、今回はいいかなと思っていたが、行きたくなる。チケットレス出撃、するかあ。

パヴァロッティ。
 やはり、心なしか生彩に欠けるような気がした。こういうコンサートでは歌い崩しは付き物だが、ちょっとそれが気になる。短く切る音と長く伸ばす音があって悪いとは言わないが、それが聞く側の聴覚の快感に結びつかない感じがする。

今回頂戴したチケット、何と券面価格が75000円。この1/10の値段でも、自腹となると、たぶん私は買わないだろうなあ。世の中、お金持ちがいるものだ。
 このコンサート、客席は劇場に来るファンとは全く違う。早い話が、お祭り、4年に一度の一戦を前にしたイベント。私の育ったところ、日本のラテン、河内音頭の盆踊りのイメージとダブる。

あ、しかし、三大テノール、もう、これが最後かな。いやいや、そんなことはない、きっとパヴァロッティ引退2005ワールドツアーがあるに違いない。
 そう言えば、かつてパヴァロッティのNYセントラルパークでの野外コンサートに行ったことを思い出した。何とあれはタダ、つまり0円(0セント)だった。このコンサートはLDにもなっていて、私も買ってみたが、大変な人出で自分の姿なんてとても捜せなかった。

しかし、早い話、彼ら三人、サッカー観戦で来日したんじゃないのかなあ。
 ドミンゴのサッカー好きは有名で、1974年の西ドイツでの大会では、カーテンコールもそこそこにスタジアムに駆けつけたという話だ(車の中でメークを落として)。
 なお、この大会中に「道化師」を歌ったドミンゴ、前半の「カヴァレリア・ルスティカーナ」には出なかったので、楽屋でテレビ観戦していたらしい。そして、道化芝居は「23ore(時)」開始というプラカードを掲げる場面で、何と西ドイツチームの試合スコアを書いたプラカードを持って登場したとか。
 これは、彼の自伝("My first forty years"、翻訳もあり)に書かれている話。

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