ワシントンオペラ「スライ」~ オペラはこうでなくっちゃ
2002/7/12

プリマ・ドンナ・オペラならぬプリモ・ウォーモ・オペラ、そんな言い方はあまり聞かないが、これはまさしくそれ。カレーラス一人舞台、2時間近く出ずっぱりで14000円(私は最安F席)はお値打ち。アリーナの75000円(と言っても招待券)と比べると破格の安さか。

二日前のドミンゴひとりという状況とうって変わって、脇役がしっかりするとドラマが締まるし、本当にオペラを観た聴いたという気がする。ミルンズなんて、私がメットで聴いたころでも、相当のヴェテランだったが、お懐かしや、健在だった。見事な敵役ぶり。いかにも作り話めいたオペラですが、スライを翻弄するミルンズの悪役ぶりは、ドラマに真実味を与えている。

驚いたのはマトスの声の力。第一幕の酒場の乱痴気騒ぎの最中に登場、彼女の第一声は、二日前のオテロ第一幕のシーンと重なる。オテロが「剣を捨てろ Abbasso le spade!」と、一声で騒ぎを鎮める二度目の登場のシーン。あの日のドミンゴの声は天井桟敷では力強さを感じなかったが、マトスは迫力充分、舞台が一瞬にして鎮まるのも、むべなるかな。ひょっとして、ヴォルフ=フェラーリは、そのパロディのつもりだったのかも知れないなあ。1年前に観た新国立劇場(中劇場)の「イル・カンピエッロ」にも、大騒ぎの場面で、確かレスピーギの引用があったし…

さて、カレーラス、私はオペラの舞台では、病気の前、1986年のロイヤルオペラ来日「カルメン」以来だ(びわ湖ホールの「フェドーラ」はクーラだった)。音楽的な面を云々しても仕方ない横浜アリーナの公演でも、彼の好調ぶりが窺えたし、ましてや彼が蘇演した「スライ」、期待をもってNHKホールに出かけ、それは裏切られることはなかった。

いわば、レチタティーヴォがずっと続き、幕切れ近くになって印象的な音楽というのは「イル・カンピエッロ」にも共通するが、ちっとも飽きさせなかったし、どんどん彼の歌に引き込まれて行った私。
 何を隠そう、この日まで、ただの一音も聴いたことがない、全く初体験の作品でだった(事前にCDで予習しない無精者なので)。

ヒメネス指揮のオーケストラ、まだルーチンにはなっていない(レパートリーに定着していない)曲だけに、意気込みからして違うように感じた。上々の演奏だったと思う。「オテロ」や「トスカ」では、こうはいかない。採り上げたオペラハウスはまだ数えるほどの「スライ」を、初めて日本の聴衆に紹介する訳だから、彼らのプロダクションとしてベストを示したいという気持ちが強かったのだろう(もちろん舞台上の歌手に触発されたところも大きいか)。

天井桟敷も天井桟敷、風呂屋の下足箱みたいな「ホの31」、要は補助席(肘掛けなし)で鑑賞した私だが、通路脇だったので狭さは感じなかったし、最後列だから上着を椅子の背に掛け、ときどきは大きな伸びのリラックス状態。
 そう言えば、ピットの男性奏者、上着を着ていた人は数えるほどで、ほとんどはシャツ姿。客席にはドレスアップした人の姿も多いのに、これは何か変だな(アメリカ人らしい気もするが)。

ジャンルのトップメニューに戻る
inserted by FC2 system