二期会公演「マイスタージンガー」 ~ これは暑気払い
2002/7/27

公演のチラシ

じっとしていても汗がにじむこの時期、休憩を含んで6時間に及ぶ超大作を聴くのは、ちょっときついかなと思っていたが、出演者の熱唱で、少しばかり暑気払いになった。

先のフィガロでもこの団体の実力のほどを再認識したが、マイスタージンガーという、一昔前なら歌手を揃えることすら困難な演目で、これだけの水準の演奏を聴かせてもらえるとは。

例によって、5階Rの最廉価4000円の席だったが、これは安い。

ザックスの多田羅迪夫さん、大詰めの歌ではちょっとガス欠気味のような気もしたが、長丁場を聴かせてくれた。エーファの佐々木典子さんとの第二幕冒頭のデュエット、それぞれの微妙な心理の綾を表現した音楽で、私の好きなところですが、楽しませてもらえた。

佐々木さんもロジーナの時よりも若々しく(役柄からして当たり前)、安定した歌だったと思う。

ワルターの福井敬さん、びわ湖ホールでのヴェルディシリーズではやや不調を感じた時期もあったが、昨年のホフマンあたりでは完調、今回も輝かしい声を聴かせてくれた。この人のいいところは、勢いに任せてベルカントを逸脱することが全くないこと。アクートの部分と続くフレーズでの音量や音色の差が気になるといえば気になるが、それを完璧にやれば全盛期のドミンゴになっちゃう。

このワーグナーに続いて、9月にはプッチーニ(トゥーランドット)、10月にはヴェルディ(エルナーニ)、11月にはモーツァルト(イドメネオ)と向かうところ可ならざるはなしという状態で、これも一昔前のドミンゴのよう。真摯に新しい役柄に挑戦する姿勢にはとても好感が持てる(福井さん、どれも聴きに行きますよ)。

ベックメッサーの大島幾雄さん、ちょっと演技は滑稽さを強調しすぎのような感もあり、好みは分かれそうだが、歌唱の崩れはなく抵抗感はない。

クラウス・ペーター・フロール指揮の東京フィル、前奏曲からいきなり居眠りしてしまった(最後の和音にコーラスが重なるところでお目覚め)、私は夏バテなのかも。今日から新国立劇場でチョン・ミュンフンの蝶々夫人が始まるので、ふたつの東京フィルが上野と初台で演奏している。

どうメンバーを配分しているのか判らないが(昨年のドンカルロの時、あまりのひどさに事務局に詰問したら、一軍・二軍ではないとのことだったが)、管楽器セクションの弱さは明らか。これがヴェルディだったら、耳を覆いたくなると思うが、ワーグナーなのでまあ仕方ないかという感じ(正反対の意見の方もいらっしゃるだろうが、イタリアもののほうがオーケストラが目立つし重要)。大編成なのでエキストラも動員していると思われるが、威勢よく吹くところもある一方で、自信なさげなフレージングであれだけ音を外されてはねえ。当事者は問題の所在を十分に判っていても、いざメンバーの入れ替えとなると思うに任せないんだろうなあと想像する。

モネ劇場との提携によるクルト・ホレス演出の舞台は、第一幕の巨大な壁画風スクリーンの真ん中にマイスタージンガーの席が現れるというのが変わっているが、全般的には奇をてらったものではない。

歌合戦の場面で客席後方から職人組合やマイスタージンガーが登場するのは舞台と客席との一体感という意味では効果的。そう言えば、パン屋さんたちは、平土間席にプレッツェルを配っていました(喉詰まり要注意)。

あと三回の公演が予定されている。新国立劇場のときと同じく、後になるほどオーケストラは良くなるかも知れない。

しかし、二期会、あまりにも多数の歌手を擁するだけに、採り上げる演目が登場人物の多いものになりがちだなあ(フィガロ~マイスタージンガー~ばらの騎士)。会員歌手同士の競争も厳しい(オーディションで決める)ようだが、聴く側にとっては、それが上演レベルを高めているなら歓迎だ。

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