ご近所でヴェルディ ~ 「トロヴァトーレ」
2002/8/1

昼休み、ネット上の「オペラファン達のメッセージボード」を覗いていたら、フランコ酒井氏の投稿に、今夜トロヴァトーレが、という下りがあった。場所は幡ヶ谷のマイスペース・アスピアということ。はて、幡ヶ谷の住民である私が知らない場所だ。
 慌ててグーグルで検索…あった。何のことはない、甲州街道をはさんで、私の住まいから徒歩5分ではないか!平行した六号通商店街なら、隅々まで知っているのに、これは灯台もと暗し。と、やけにローカルな話。
 投稿を引用すると、「新国立劇場でもコレペティトゥールを務める、横山修司さんの肝いりで、若手キャストが熱演してくれることでしょう」とある。これは、ご近所でもあるし、行かねばならぬ。

いつもと反対側の出口から1分、へえー、こんなところがあるんだという感じ、クラシック(たぶんバレエも)の練習用の貸スタジオだ。そんなに大きなスペースではなく、出演者が歌い演ずるスペースで1/3をとって、聴衆は約100名というところ(圧倒的に女性)。

出演者は、次のような顔ぶれ。
 マンリーコ…樋口達哉
 レオノーラ…池畑郁美
 ルーナ伯爵…谷友博
 アズチェーナ…山岡敦子

私は初めて聴く人ばかりですが、これは、なかなか、どころか、ワクワクだった。
 PAなんて全くなし、それでも耳にガンガン…かなりライブなスタジオだから当たり前か。中央かぶりつきに座った私は、さすがに居住まいを正し真剣に聴き入る、と言うよりも出演者の熱気にどんどん引き込まれてしまった。

ピアノ伴奏で、コーラスはない。しかし、レチタティーヴォからアンサンブルまで、ドラマの進行に不可欠な部分は省略なし。装置もないがちゃんと演技付きだ。もちろん、プロンプターなしの原語上演(字幕も当然なし)。

若い歌手たちで、これからが楽しみだ。私の注目は谷さん。第二幕のアリア(君の微笑み)のカバレッタが素晴らしかった。カバティーナの部分では、高音で少し苦しいところもあったが、これから先の精進で歌えるようになる。もう少し力を抜くことを覚えれば、きっと素晴らしいヴェルディ・バリトンになるだろう。
 レチタティーヴォでの言葉の丁寧さ、ここをゆるがせにせずに歌うのがヴェルディ・バリトンの必須条件だと思う。素晴らしい。今でも、リゴレットやイャーゴのような強烈な役柄では効果的な声だと思いますが、ルーナやロドリーゴのような役だと、高いところで力まずに美しいカンタービレを聴かせてほしいなあと思う。ヴェルディに限らず、もっと軽い役柄の歌を並行して勉強したらいいんじゃないかなあ。

池畑さんの第一幕のアリアはちょっと固い感じがしたが、ドラマが進むに連れて、好調さがはっきりとしてきた。アンサンブルでは自然体だし、終幕の私の大好きなアリア(恋はばら色の翼に乗って)は、何とも言えない軽やかさとピアニシモの美しさがあった。

樋口さんも良かったのだが、全般に力が入りすぎの傾向もある。若い人に力を抜けと言うのも無理なんだろうなあ。それが若さ。フルスロットルで歌わなくても、フレーズの終わりの母音のシャープさがあれば、その効果たるや非常に大きなものがあるのだが…
 第三幕のアリア(あなたこそ私の恋人)では、次のカバレッタは大丈夫かしらと心配になったが、これはカット。私は、いったん舞台袖に引っ込んで、息を整えてからやるのかと思っていたが、プログラムにも記載がなかったので予定どおりということか。まあ、オペラはサーカスじゃないし、あんなところを意識するよりも、ドラマ全体の表現力をつけることに心血を注いでほしいと思う。

熱狂的な中日ドラゴンズファンである私は、対「読売」戦(「巨人」とは言わない)8連敗で、今シーズンの優勝は遠のいたと、さすがにナイターTV観戦はパスしてオペラに行ったが、帰ってニュースをつけたら川上憲伸がノーヒットノーランだって。なんじゃこりゃ。でも、楽しめたご近所のヴェルディだった。

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