リクルート・スカラシップ・コンサート ~ Bravo四段活用
2002/8/7
盛りだくさんな内容、これは藤原歌劇団のホープ総出演という感がある。日中はコンクールで、夜は卒業生たちのガラコンサートかな。器楽(ピアノ)の人も4人出演ですが、声楽は12人。休憩の直後には、コンクール優勝者の演奏(声楽・ピアノ各1名)があったので、終演は夜10時近くになった。
ピアノは省略、声楽のプログラムを列挙すると、次のとおり。
セキディーリア(カルメン)…中村春美
星は光りぬ(トスカ)…樋口達哉
慕わしき人の名は(リゴレット)…藤田美奈子
ごめんください、皆さまがた(道化師)…豊島雄一
私が町を歩くとき(ボエーム)…福田玲子
ハバネラ(カルメン)…河野めぐみ
あの声は、何と(トロヴァトーレ)…砂川涼子、谷友博
-- 休憩 --
炎は燃えて(トロヴァトーレ)…高尾佳余
もう飛ぶまいぞこの蝶々(フィガロの結婚)…久保田真澄
美しい乙女よ(リゴレット)…藤田、河野、樋口、豊島
その汚れなき微笑み(ベッリーニ・海賊)…砂川
歌に生き、愛に生き(トスカ)…下原千恵子
氷のような姫君の心も(トゥーランドット)…野田浩子
憐れみも誉れも愛も(マクベス)…谷
ご覧なさいノルマ(ノルマ)…下原、高尾
乾杯の歌(椿姫)…樋口、野田、全員(アンコール)
何曲歌うか、何番目に歌うか、何を歌うか、歌の長い短いは…
聴き終えてプログラムを改めて眺めると、実績、実力、さらに、プロデューサー五十嵐喜芳氏の期待度が見事に反映されている。そして、私の評価も、ほとんどそのとおり、というのも不思議。
私にとっては、何と言っても、谷友博さん、砂川涼子さんだ。
幡ヶ谷アスピアのトロヴァトーレから1週間も経たず、再び谷ルーナを大ホール(新宿文化センター)で、益々いいなあ。歌うたびに進化していくという感じだろうか、秋の新国立劇場はこちらが本当はAキャストだと思う。
マクベスのアリアでの声の威力、カンタービレの美しさも事欠かない。ヴェルディ・バリトンの第一人者になるのは時間の問題かも。
砂川さんのレオノーラは軽やかなコロラトゥーラのところは、いいに決まっているが、リリコ・レッジェーロからリリコさらにはリリコ・スピントへの可能性を感じさせる歌が聴けた。
砂川さんの海賊の至難なアリアも、また素晴らしかった。イル・カンピエッロで心を奪われたのは、わずか1年前なのに、それからの進境ぶりの大きなこと。全く濁りのない声と歌、表現力はまだまだ進化するだろうし、慎重にレパートリーを選んで行ってほしいと思う。そう、フレーニのように。
谷さん、砂川さん、デュオは言うに及ばず、それぞれのソロも、長いレチタティーヴォを含む完全版で、破格の扱いというのも頷ける。
この二人で、Bravo! Brava! Bravi! そして最後のノルマでBrave!
かくして、一夜でBravo四段活用となったのは初めてのことか。幡ヶ谷アスピアと同様、歌手から数メートル、二列目中央にデンと構えて聴いていた。
またもチケットレスで当日券売り場に並ぶと、後から背中を叩く人が…。振り向くと、「一人来られなくなったので、あげましょうか」と言うオジサン。
「ありがとうございます」と、予想通りの展開ににっこり。勇躍入場しようとすると、オジサン何か言いたそうにブツブツ。
「ははあん」と、さっと半額2000円を渡して、とっとと入場。いまどきの日本、男のほうが何だかチマチマしているなあ。
話が飛んだが、他の歌手で印象に残ったのは…
樋口さん、テノール一人なので大変、トスカのアリアはなかなかのもの。リゴレットのクァルテットはリード役なので大活躍だったが、最後はファルセットがかすれ気味。かえって、乾杯の歌は力が抜けて良かったかな。
この歌で、ヴィオレッタのパートを歌ったのは野田さん。スケールの大きな歌だなあと思う。リューのアリアではちょっと表現過剰気味と思えるほどだが、舞台映えする人だし歌かも知れません。
藤田さんもアンサンブルでは素敵なのにアリアは好みが分かれそう。立派な歌だが、声の好みで言うと、私はちょっと。
男性陣、豊島さん、久保田さんは安定した歌を聴かせてくれた。新国立劇場での舞台の経験が生きているのだと思う。
下原さんは昨年のマクベス夫人で感銘したが、トスカのアリアは今ひとつ。抑え気味に歌ったノルマのほうが好ましい。
相手役の高尾さん、メゾの中では出色。これから舞台出演も増えそうだ。
コンサートも夏枯れのシーズンだけど、こんな催しもあるということで。