新国立劇場「椿姫」~やはり、これはプリマドンナ・オペラ
2002/9/7

3週間、休みなしで仕事すると、さすがに山登りで鍛えた(?)私もバテバテ状態。おかげで、この1か月、オペラもコンサートもすっかりご無沙汰、オペラも夏休みシーズンだったけど、チケットを持っていた「愛の妙薬」も見逃したし、一昨日の新国立劇場のシーズン初日にも行けなかった。

まあ、天井桟敷専門の私なので、手持ちチケットは「クラシック・チケット掲示板」に出した途端に瞬間蒸発、経済的な損失はなかったが…

公演のチラシ

久しぶりに休みがとれた土曜日、はて、睡眠不足解消を決め込んでもいいかと思っていたら、掲示板に椿姫のE席が!!
 こりゃ、速攻メール。めでたくゲット。かくしてインヴァ・ムーラの初日を聴いた。

私が初めてオペラのレコードを買ったのが椿姫、私にとって神様同然のトゥリオ・セラフィンの指揮、アントニエッタ・ステッラ、ジュゼッペ・ディ・ステーファノ、ティト・ゴッビ、スカラのモノラル録音だった。それは、もう40年近く昔の話。
 以来、いくつもの舞台を観たが、こんなに名高いオペラなのに、あまり印象に残るものがないという不思議な作品だ。それだけ主役ヴィオレッタは難しい役柄ということだろう。

今日の公演をご覧になった方々の印象はいかがかなと思うが、私の極めて個人的な感想は、インヴァ・ムーラの歌唱でプリマドンナ・オペラを堪能できたというところ。彼女は私にとって記憶に残るヴィオレッタとなると思う(昨年のグルベローヴァよりも…)。

もちろん、私は彼女を初めて聴いたのだが、最初、ちょっと好みの声じゃないし、言葉もクリアじゃないしと思っていたら、第一幕の大アリア(ああ、そは彼の人か~花から花へ)では圧倒されてしまった。

それからは、細かいことなどどうでもいいや、やはり、声が、歌が、それでなきゃワクワクしないものね、という感じ。終始一貫、彼女ひとりが主役。功成り名遂げた歌手の至芸を聴くのではなく、今まさに旬の歌手を、力のある歌を、聴くしあわせ。

細かいニュアンスだとか、表現だとか言ったところで、若さが持つパワーに敵わないことがある、それをこの作品の歌は求めているという風に私は思う。ああ、こんなヴィオレッタは滅多に聴けない(10年ほど前に聴いた塩田美奈子も良かったけど)。

常にヴィオレッタにフォーカスが当たり、彼女以外の登場人物はソフトフォーカスと言うか、セピアカラーと言うか、そんな舞台だし演出だし音楽だった。これが意図したものだとすれば、それはご立派、求心力のある上演と言ってもいいかなと思う。

もちろん、線は細いが端正なヴァルター・ボリンのアルフレード、ノーブルな牧野正人のジョルジュが悪いということではなく、良い意味での引き立て役に徹していたかなと思う。

丁々発止のアンサンブルもイタリアオペラの醍醐味だけど、この作品では、終始ヴィオレッタというアプローチも正解かな。

メル友の方が掲示板に「長かった」と書かれていたのは、アンドレア(イタリアでは男の名前だけど)・ロストの初日のこと。それは観ていないが、何となく判る気がする。
 単純に考えると、第二幕のアルフレードとジョルジョのカバレッタをカットしなかったこと(私はトラディショナル・カットには、それなりの意味があると考えている)と、終幕のヴィオレッタの哀切なアリアを繰り返したことですが、極めて遅いテンポ(ブルーノ・カンパネッラ指揮の東京フィル)にも原因がありそうだ。

もう少しで音楽の流れが止まりそうなほどにテンポを落とすかと思えば、おやっと思うほど短く切りつめるところもある。時々気になったが、ゆっくりじっくりドラマを進めていくということでは、これも一つの考え方かなとと思う。

ル-カ・ロンコーニの演出は意外なほどオーソドックス、新国立劇場の舞台機構を駆使し左右スライドで倍の幅で展開する第一幕と第二幕第二場、このパターンは同じ新国立劇場の蝶々夫人でも効果を挙げていたもの。

印象的だったのは、第一幕、ヴィオレッタの客間でアルフレードと二人残ったシーンで、ソファに座ったアルフレードにヴィオレッタが覆い被さるように能動的に長いキスをするシーン。とてもエロティックでヴィオレッタは娼婦であることを否が応でも印象づける。終幕の哀切さに至る見事な伏線(落差)かと感じました。

それと、第二幕第一場のジョルジョの(カットしても何の支障もない)カバレッタの後半、ヴィオレッタが千切ったフローラからの夜会の招待状を、アルフレードがジグソーパズルよろしくテーブルに並べて判読するという設定、これはヴェルディにしては陳腐で余計な音楽のバックの演出としては秀逸。

ちょうど1か月のブランク。コンサート、オペラへの渇望が高まっていたその時、劇場にいる幸せを感じることができた素晴らしい椿姫だった。
 私はロストの日は行けそうもないが(完売、私はチケット放出予定)、ムーラ、聴いて損はないどころか、予期せぬ大当たりということに。

(後日譚)

この日はダブルキャストの裏メンバーの初日。終演後、2時間ほど経って私はネット上に感想を書き込んだが、他の方々のムーラの評判も高く、すぐにムーラの日はSOLD-OUTになってしまったようだ。

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