シューベルティアーデⅦ ~ 夫婦で甲子園へ
2002/9/21
9月二度目の三連休、久々の単身オヤジの帰省、東京から富山経由でという、よからぬことも考えたが、いや、ここは愛する家族の許へ直帰。
上越・北陸・湖西・東海道経由で、東京発東京行の切符を買えば余分な交通費を使わずにインヴァ・ムーラのヴィオレッタ、新国立劇場のいいとこどりのキャストでのトラヴィアータが聴けたのだが(まだ、未練がましい…)。
カミサンから「21日のシューベルティアーデの招待券、おともだちからもらってるよ」なんて前に聞いていなかったら、富山に寄り道していたかも知れない。
「今日のコンサート、園遊会付きみたいだよ」と冗談半分に言うと、カミサン、「何を着ていこうかしら」となかなか決まらない。私は武庫川学院甲子園会館に行くのは二度目、カミサンは初めて。
東京のファンにはあまり馴染みがないかも知れないが、大阪倶楽部で26回、足かけ7年にわたったテノールの畑儀文さんによるシューベルトの歌曲全曲演奏は、関西の音楽シーンで記念すべきイベントだった。そこは、勤務先から徒歩5分もかからない場所なのに、私は遂に一度も聴けずじまい。さて、この日のプログラムは次のとおり。休憩なしで約1時間。
「湖上にて」「ガニュメート」「楽に寄す」「ます」
畑儀文(テノール)
城村奈都子(ピアノ伴奏)
佐々木美穂(朗読)
ピアノ五重奏曲イ長調「ます」
ジャック・ティボー・トリオ
斎藤雅俊(コントラバス)
カヨ・パガノ(ピアノ)
前半の歌曲、同じ時期の作品を集め、歌に先立ち日本語訳の原詩の朗読を入れるのは、ドイツ語が判らない私にはなかなか親切。詩のシチュエーションや雰囲気がよく判る。畑さんがコメントされていたが、「ます」では原詩の後半部分にシューベルトは作曲しなかったということ。
清流を元気よく泳ぐ「ます」を見る少年。
漁師が登場、少年は釣れるはずもないと高をくくる。
狡猾な漁師は川を濁らせて、釣り糸を垂れる。
そして、造作もなく釣り上げられる「ます」。
このあと、原詩では、娘たち、誘惑者にはご用心、というような教訓が長々と。なるほど、曲をつけなかったのは当たり前か。
この日の畑儀文さんは、声に疲れもなく、若々しいシューベルトの曲を、清々しく聴かせてくれた。
ボリューム的には、プログラムの中心は後半の室内楽。これまた、若い演奏者の活き活きとした演奏で楽しめた。
100人はいたと思うが200人には満たない聴衆、私たちはコントラバスの後方2mの最前列に座っていたので、シューベルトがコントラバスを加えた意味がよく判った。アンサンブルの下支えがしっかりする。
室内楽を本当に室内楽として聴く贅沢さ。シューベルトの友人たちのサロンもこんな感じだったのだろうか。聴衆は毎回来ている人が半分ぐらいいるのかな。
この武庫川学院甲子園会館は、今は大学が管理する施設だが、かつては格式の高いホテルだった。昔の帝国ホテルに雰囲気が似ている。建築家がライトの弟子のようなので当たり前かな。
会場は、ホテルの頃はパーティルームとして使っていたところだろうか。扉を開けるとすぐに綺麗な庭に続いている。終演後は演奏者も加わり、そこでガーデンパーティ。今回は食べ物も飲み物も、前回よりも充実。車で出かけた私は、ビールが飲めず残念。奈良の自宅から途中の阪神高速の渋滞もなく1時間足らずだった。
(余談)
聴衆の熱心な拍手に応えて、アンサンブルの面々がアンコールで演奏したのは、「ます」の第四楽章という私の予想に反し、トリッチ・トラッチ・ポルカ。
なるほど、この秋晴れ。運動会シーズンだものねえ。