びわ湖ホールの「エルナーニ」 ~ 皆勤賞5年
2002/10/26

先週に続いての帰省、たまたまそうなったのではなく、ずっと前から、この週末は帰省と決めていた。何てったって、びわ湖ホールでのヴェルディの初演シリーズの5作品目がある。「ドン・カルロ(五幕版)」「群盗」「ジョヴァンナ・ダルコ」「アッティラ」と続いて、今年は「エルナーニ」。来年は「シチリア島の晩鐘」ということだ(これはこの春に若杉さんに直接聞いたので間違いないはず)。今のところ、私は皆勤賞である。

昨年の「アッティラ」が、とてもすばらしい出来映えだったこともあり、大きな期待をもって臨んだ「エルナーニ」。日本初演の水準としては十分過ぎるほどのもので、文句をつける筋合いではないが、ヴェルディの初期作品が持つ独特の熱を感じることが出来たかとなると…

例えて言えば、沸点には到達せず、70℃、80℃あたりで止まるという感じ。100℃のお茶を飲んだりはしないが、美味しくお茶をいれるには沸騰させた上で適温に冷ます。やはり同じ温度でも違うような気がする。

このオペラは、テノールとソプラノにとって、大変なプレッシャーだろうと思う。第一幕第一場のエルナーニ(福井敬)、第二場のエルヴィーラ(小濱妙美)、それぞれ登場していきなりの大アリアがある。しかも、この二つ以外に単独で採り上げられるアリアはない(コーラスナンバーは別)。大げさに言えば、上演の成否を左右する、失敗が許されないアリアということだ。

今日の福井さんは尻上がりに好調さを取り戻したが、第一幕は今ひとつ。レチタティーヴォのゆとりが感じられず、アリア自体もフラット気味。ヴェルディの息の長い旋律がブツ切りにされるような印象があった(いつもはそんなことがないのに)。それは、第二幕で声が出るようになってからも、強く声を張る箇所が多すぎて、かえって逆効果のようなところが散見された。マンリーコのアリアを思わせる第二幕の幕切れは決まったが、惜しむらくは、第一幕のアリアもこのレベルでやって欲しかった。
 この時期のヴェルディはオーケストラも薄く、全てを歌に委ねてしまうような部分も多いので(例えばアカペラの多用)、余計に大変だと思う。長いメロディラインを殺してしまうと、聴く方もとてもつらい。

小濱さんは安定した歌いぶりだった。最初のアリアは、無難にこなしたが、これまたヴェルディ初期作品特有の上昇音型でのゾクゾクするようなクレッシェンドが聴けたかとなると…

若き日のカルロ五世(福島明也、ドン・カルロのフィリッポの親父さんだから、ヴェルディの二作品に登場するのか)、特定の音域で薄っぺらな響きになるのが気になりましたが、第三幕の一人舞台はさすがでした。男性陣では一番の安定度かな。
 キーパーソンでもあるシルヴァ(小鉄和広)、かなり場面によってムラがあったように思えた。私の好みの声じゃないのも影響しているけど。
 結局、歌の感銘度で一番だったのは、短い終幕。福井・小濱・小鉄のアンサンブルはフィナーレにふさわしいものだった。

いつもの、東京オペラシンガーズ、びわ湖ホール声楽アンサンブルのコーラスは立派。しかし、ちょっとボリュームがありすぎ。三階正面のS席(A席?)に最初から移動して聴いていたため、耳をつんざくほどだった。もう少し抑えてメリハリをきかせた方が…
 まあ、それは全般に言える。とにかく出演者の力が入っているのが、全て良い方に作用する訳ではないし…
 ソリストたちは回を重ねて歌い込めば、もっと満足度の高い公演になるはずだから、残念なところもある。半年、一年おいて東京でも同じプロダクションの再演が観たいものだ。若杉弘指揮の京都市交響楽団にしても同じ。また、せっかくの見事な衣装、二回の公演では、もったいないし。

今日、ひとつ嬉しいことがあった。
 びわ湖ホールのエントランス左手に、オープンスペースの音楽関係書籍のコーナーがある。ホールがオープンした頃、ちょうど自宅の引越とも重なったので、山ほどたまっていたOPERA NEWS(メットの機関誌) のバックナンバーをびわ湖ホールに寄贈した。1987年から約10年分(17冊/年)、一冊も欠けずに揃っている。ここに行くたびに、(元)自分の書籍が並べられているのを見ると、我が家に帰ったような気分になる。
 一冊ずつはそんなに厚くない冊子なので、去年見たとき、このまま棚に並べていると、だんだん傷んでしまうなあと思っていたが、今日見ると、各年ごとに立派なバインダーに綴じて並べられていた。安心するやら、感謝するやら。これなら、差し上げた甲斐があるというもの。

       * * *

大津に寄り道したので、奈良の自宅にいたのは丸一日。下のこどもの誕生日が近いので、今日は、お約束のゲームボーイの新ソフトを買いに出かけたりで、6時前には帰京の途に。

19:14京都発のひかりの指定席(臨時列車を選ぶと空いている)を取っていたので、少し早めに到着しホームを歩いていると…
 おっと、若杉さんではないか。二日目の公演を終えて、奥様と二人、ひとつ前ののぞみをお待ちと見受けられる。思わず目が会って、いきなり、挨拶も抜きで…
「きのう聴かせていただきました。すばらしい公演でした」
「どうもありがとうございます」
「もう、お体のほうは大丈夫ですか」
「ええ、おかげさまで」
「また、来年も聴かせていただきます。やはり、秋ですか」
「ええ、そうです」
「前に、次はシチリア(の晩鐘)とお聞きしましたが」
「はい、変わりありませんよ」
「そうですか、楽しみです。今後ともご活躍を」

あわただしいホームでの会話だったが、後で気がついたら私は手帳に昨日の半券を挟んでいた。それを思い出していたらサインしてもらったのに。
 若杉さんは、かなり濃いめのベージュのスーツという出で立ち、なかなかダンディ。いきなり私ごときのファンが声をかけても、丁寧に応対していただける。私は軽く会釈した程度なのに、若杉さんのお辞儀の角度はそれ以上だった。ほんと恐縮してしまうなあ。秋のびわ湖、また行かねばならぬ。

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