東京フィル定期「イドメネオ」 ~ 退屈しなかったモーツァルト
2002/11/7
会場でお会いした、ネット上での知り合いのかた曰く、「だいぶカットしたんじゃないかしら。例えば、エレットラのアリア、もっと長いように思いましたが…」
確かに、私も、そんな気がしてならない。
でも、おかげ(?)で、退屈せずに最初から最後まで、音楽に集中できたのは、モーツァルトではとても珍しいことだ。傑作と称される作品でも、私は必ず退屈してしまう瞬間がある。いつも、もうちょっと切りつめたらいいのになあと感じる。何しろ、私にとって、モーツァルトのちょうどいい長さは「後宮からの誘拐」なんだから(この作品が一番好きかな)。
開幕いきなりのイリアのアリア。幸田浩子さん登場。長く、起伏があるとは言えない曲だけど、聴かせてくれました。うーん、これは武蔵野のリサイタルと新国立劇場のツェルビネッタ(シュトラウス「ナクソス島のアリアドネ」)も楽しみ。私のご贔屓の釜洞祐子さんに近い感じかな。言葉がシャープだ。そうでなきゃ、この曲なんてダレてしまうのは必定。一語一語のクリアさとなかなか両立しにくい響きのバランスの良さ。ひと味違う感じ
それにしても、この声質・声域の日本人歌手は人材豊富だ。世界水準であることは間違いない。幸田さんは容姿にも恵まれているし、日本でもブレイクしそう。
吉田浩之(イダマンテ)さんの登場の場面は多い。今日はとても好調な歌唱だ。私は、あまりこの人のいいときの歌を聴いたことがなかったが、少し高音に傷があったものの美声のテノールと見直した。
題名役の福井敬さん、エルナーニでは不完全燃焼気味のところもあったが、がらっとスタイルの変わるモーツァルトでは立派な歌唱だ。吉田さんとの声の対比を意識したような歌い方と見受けたが、様式感がしっかりしているのは流石だ。
どうしてもこの作品では浮いてしまうエレットラ、緑川まりさんの最後のアリアは迫力があった。でも、思いのほか短い感じだなあ。こちらも幸田さんとの声の対比が見事。
東京オペラシンガーズのコーラスは、第二幕がすばらしい出来、メリハリの付け方がいい。
沼尻竜典さん指揮の東京フィル。このシリーズの最上のときの大野和士さんの演奏に比肩するものだと思う。最近は新国立劇場でもずいぶん良くなったのだが、舞台の上にのった東京フィルは、ピットの中とは全然違う感じ。私は詳しくは判らないが、そのときのメンバーの関係か、演奏会形式という音楽への集中度の違いか。
ほとんど聴いたこともない作品なのに、終始一貫、眠くなる瞬間がなかったモーツァルト初めて(私だけのことかも知れないけど)。