新国立劇場「セヴィリアの理髪師」 ~ シラグーザ全日登板!
2002/11/9

「Bキャストも絶対聴く」というのが、私の最近のポリシー。開幕の「椿姫」でのムーラのようなこともあるし、これからメジャーになる人も出る。それに、来シーズンからは、この楽しみもなくなるので、今のうち。

先日、途中降板したアルマヴィーヴァ役のジョヴァンニ・ボッタ、捲土重来の舞台を期待していたが、よほど具合が悪いのか、アントニーノ・シラグーザが土日連続ということに。

そう思って聴くせいか、抑え気味の歌かなとも見えたが、この人の発声はとても自然で無理がない、決めるところはしっかり決めてくれる。幕切れのアルマヴィーヴァのアリアも初日に遜色のない出来映え、お隣に座ったネット仲間と、思わずBravo!と叫ぶ。やはり、フローレス以上だなあ。

パオラ・アントヌッチのロジーナは高音の力強さ、コロラトゥーラの切れ味、舞台姿のチャーミングさの反面、中音域のふくらみに欠けるのは、ないものねだりかも知れない。

フィガロはアレッサンドロ・バッティアート。Aキャストのロベルト・デ・カンディアに比べると、スタイルもいいし、セヴィリアの伊達男ぶりという点では相応しいが、歌のほうは体型とは逆に、颯爽とという感じは見られず、カンディアに一日の長がある。

バルトロの久保田真澄は好演。オペラでも何でも、仇役が上手くなければ面白くないのは常識、お芝居の要の役だけに、歌と演技が光る。反面、池田直樹のバジリオは、登場のときの声には耳を奪われるものがあっても、陰口のアリアになると全く生彩がない。ロッシーニの音楽の推進力と相容れない。

初日の感想では触れなかったが、端役のベルタには不満だ。初日は本宮寛子、今回は郡愛子。この役の設定はどうなっているのか詳しくは知らないが、おばあさんに近いものなのだろうか。トゥーランドットの皇帝役のように、往年の歌手がやるのが普通ということなのかしら。ことさら、しわがれ声を出すのが正しいのか…。私は全く感興を殺がれる思いがするのだが。贔屓筋と思われるBrava!が飛んでいたが、私には理解不能。

不満な点はいくつかあったが、シラクーザの大活躍、久保田真澄の芸達者、総じて言うと満足できる舞台だった。
 初日に気になったロジーナの家の屋外階段が第一幕で大勢が登ったときにギシギシと音を立てるのは、装置を補強したのか改善されたようだ。それとバジリオのアリアの背後で舞台がスライドしているときの騒音は、やはり気になる。それが"piano piano…"という歌詞のところだけに、これも冗談かな。

随所に日本語歌詞を挿入して笑いをとるのは賛否両論があると思うが、確かに客席の雰囲気を和らげるという効果はある。原語の歌詞が判れば思わず笑ってしまうところ(*)は多いとは言っても、ここはイタリアじゃないし…


(*) 例えば、第一幕第二場、フィガロが due passi という歌詞のところで、大げさに椅子に座ったバルトロに「二歩」で歩み寄るというシーン。これは、「すぐ近く」という意味のイディオムを、字義通り即物的に表したギャグだろう。

ジャンルのトップメニューに戻る
inserted by FC2 system