新国立劇場「イル・トロヴァトーレ」 ~ 確率は低くとも
2002/11/23

一日おいて別キャストの公演にも足を運ぶ。この日は、前半と後半とでは、出来がかなり違い、後の方が良くなった。

公演のチラシ

第三幕第一場は、オペラを観ている、聴いていると実感。
 アンナ・マリア・キウリのアズチェーナは、今日のキャストで光っている。新国立劇場の前のカルメンのときは、ちょっと古くさい歌い方かなと思ったが、この役では全く違和感がない。
 捕らえられてルーナ伯爵の許に引き立てられるシーン、ここのアンサンブルは見事だった。そして彼女のルーナに向ける視線と表情の凄み、うーん、これは魅せてくれる。

今日のお目当てだった谷友博、あれだけレチタティーヴォやアンサンブルが魅力的なのに、アリアで力が入り過ぎ、不安定な歌になってしまったのが残念(ルチアのときも、その傾向があった)。幡ヶ谷アスピアで目の前5メートルぐらいで、彼の素晴らしいルーナを聴いているだけに、これだけの素質が、実力が、充分に発揮できたとは言えないなあ。声量は他を圧しているのですから、もっとベルカントに徹して力を抜いてもいいんじゃないかなと私は思うのだが…。そうしたら高音ももっと楽に出るのではないのかな。

アントニーノ・インテリザーノのマンリーコ。もう一人のテノールに比べれば、はるかに音楽的ですが、今度は声が弱いという問題が…。アンサンブルでは埋没してしまって存在感がなくなってしまう。それに、この人は小太りまんまるの容姿でも損をしている。坂道を駆け下りてルーナの許からレオノーラを奪回するシーン(第二幕第二場)、あっ、間に合わないんじゃないかな、転がってしまったら…。一転、喜劇になってしまうと本気で心配したほど。

そして、レオノーラのアマリッリ・ニッツァ。悪いということではないのだけど、私は声に全然魅力を感じなかった。ファンティーニとの差は大きい。最後に高音で伸ばす部分など、そこだけ切り取って聴いたとしたら、ちっとも美しい響きではない。

幕間にメル友の方とのご対面のお約束があって、天井桟敷から1階ホワイエに下りた。そこで久々にお会いした岩井理花さんに「後半は、あなたが替わって歌ったらどうですか」と半ば本気で言った私。

オーケストラは一昨日よりも随分良くなってきたと思う。楽日に向けてさらに改善するなら結構なことだ。やはり、新国立劇場のプロダクションは後のほうで観るべし、なんだろうか。

何かと騒がしい今回のトロヴァトーレだけど、生きていて良かったと思う奇蹟のような一夜もあるだけに、劇場がよいはやめられません。

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