幸田浩子ソプラノ・リサイタル ~ 新国のツェルビネッタ、そしてオランピア
2002/11/30

プログラムの表紙

6月頃に武蔵野市民文化会館から来たDM、いつものワープロ打ちの質素なチラシの束。パラパラと見ていたら、幸田浩子リサイタル全席指定1500円というのが目にとまった。ローマ歌劇場の「ホフマン物語」のオランピア役でセンセーションを巻き起こした…というような、いつものパターンのキャッチコピー。

えっ、こんなプログラム、グルベローヴァじゃあるまいし、大丈夫かなあと思いつつ、格安なことだし、まあ、行ってみるか、と発売日に購入。さすがに、あっと言う間に売り切れたようだ。その後で、これから「イドメネオ」のイリア役を歌うこと、新国立劇場のツェルビネッタだということを知ったのだから、私もテキトー、いい加減なもの。

本日のメニュー、予告されていた「ファルスタッフ」からのナンネッタの歌はヘンデルに差し替えられたようだ。

ヘンデル「親愛なる森よ」~歌劇「アタランタ」
 ヘンデル「私を泣かせてください」~歌劇「リナルド」
 ヘンデル「もう一度、愛の言葉を聞かせて」~歌劇「アルチーナ」
 ロッシーニ「ああ、ふさわしい花婿に」~歌劇「ブルスキーノ氏」
 ベッリーニ「あなたのやさしい声が」~歌劇「清教徒」
     (休憩)
 リスト「ペトラルカの3つのソネット」
 R.シュトラウス「偉大なる王女さま」~歌劇「ナクソス島のアリアドネ」
 オッフェンバック「森の小鳥はあこがれを歌う」~歌劇「ホフマン物語」

グルベローヴァ「前」、グルベローヴァ「後」という言い方があるのかどうか知らないが、このレパートリーを歌う今のソプラノは必ず彼女と比較される宿命にあると思う。

ヘンデルのアルチーナ、リストの三曲目「私は地上に天使のような姿を見た」では、私はとても幸田さんの歌が気に入った。中音域にしっとりとした魅力的な色合いのある人だ。どの曲でもそれは言える。きれいに楽譜どおりに再現するということに加えたsomethingがある人だ。それがないと檜舞台には立てないから…

課題は、高音域での声の密度の不足だと思う。そのために、かすれた声のような印象を受ける部分がある。技術的なことは判らないし、専門用語での言い方もあるだろうが、そんな感じ。プログラム前半最後の「清教徒」では、比較の対象を今年聴いているだけになおさら。

後半のツェルビネッタは、間もなく新国立劇場にかかるオペラのお披露目という感じ。すでに稽古もたけなわだろうし、仕草も堂に入っている。彼女はBキャスト(12/13、15)で、Aキャストとの聴き比べが楽しみだ。

最後のオランピアは、すでに舞台でも当たりをとったらしく、こなれている。本日の見開きプログラムによれば、2003/4シーズンの新国立劇場の「ホフマン物語」のオランピアは彼女ということだ。28日に新国立劇場であった説明会で、新音楽監督は何も言及していませんでしたが(「マクベス」のバンクォーが妻屋秀和さんだとか、その次のシーズンは、「カヴァレリア・ルスティカーナ」/「道化師」で開幕とか言っていたのに…)。

幸田さんは、国内での本格的なリサイタルは初めてとのこと。本人の弁によれば緊張したということでしたが、なかなかのもの。最初はちょっと固かったですが。

ここで、うるさいオヤジの余計なつぶやき。
 満場の大喝采でのアンコールはミュージカルナンバーと、彼女の声のために書かれたというポピュラー系の新曲。後者はこれから出るCDの10曲のうちの一つとか。イタリア語の耳触りのいい曲なんだけど、カンツォーネとアリアの折衷様式で、それだけのもの。
 容姿もいい彼女ですから、商業的に売り出したい向きもあると思うが、そんなことに惑わされて欲しくないなあ。いい素材だけになおさら。
 芸術の僕となれと強要することなど出来るはずもないし、彼女の道は彼女が決めることだが、素敵ではあったものの完璧にはまだ道程も見えるリサイタルだっただけに、ふとそんなことを思う。歌い手は声が楽器、気がついたときに、やり直しが効くとは限らないから…。

ピアノ伴奏の斎藤雅広さん、もともとピアノ音楽に関心がなく、私は知らない人だったが、「ぶらあぼ」の裏にワイングラス片手に載っていたヘンな人だった。これはコレペティ-トルをイメージしていた私の不明、ピアノの音にオーケストラの響きが聞こえた。

(追記)

その後、2010年に、「いずみホール開館20周年記念ガラ・コンサート」の際のパーティで幸田さんにお会いし、この初リサイタルの表紙にサインをもらった。そんなものを持った人間がこの場にいることに彼女もびっくり、ふふふ、8年越しでサプライズ成功。

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