アントニーノ・シラグーザ リサイタル ~ リラックスは高音の素
2002/12/4
しばらく前に引いた風邪がまだスッキリせず、鼻ズル状態が続いている。でも、シラグーザの一点の曇りもない声を聴いたら、一瞬鼻が通るという不思議。いやあ、期待通り!明るい彼の美声を堪能した。
何の不安もない、大丈夫かしらとハラハラすることもない、そしてあっさり見事な高音が決まる。ホント、ほとんど生理的な快感に近いものがある。
プログラムは次のとおり。
モーツァルト「フィガロの結婚」序曲
モーツァルト「ドン・ジョヴァンニ」~「私の恋人をなぐさめて」
ロッシーニ「セヴィリアの理髪師」~「空はほほえみ」
ヴェルディ「ナブッコ」序曲
ドニゼッティ「愛の妙薬」~「人知れぬ涙」
ベッリーニ「清教徒」~「いとしい乙女よ、あなたに愛を」
…… 休憩 ……
ダンニバーレ「太陽の土地」
ファルヴォ「彼女に告げて」
ロッシーニ「アルジェのイタリア女」序曲
ロッシーニ「アルジェのイタリア女」~「美しい人に、恋焦がれ」
ドニゼッティ「連隊の娘」~「ああ、友よ!何と楽しい日!」
…… アンコール ……
ロッシーニ「セヴィリアの理髪師」~「私の名前が知りたければ」
ロッシーニ「セヴィリアの理髪師」~「もう逆らうな」
カプア「私の太陽」
フロトー「マルタ」~「夢のように」
私は「連隊の娘」一曲だけを聴くためでも、このチケットを買ったと思う。この曲をシラグーザで聴きたい!
プログラム全体も、ラストのこの曲に向かって、徐々に盛り上がって行きます。そして…
ああ、何という歌だろう。アリア前半の溌剌としたリズム、素晴らしい声の伸び。そして、後半の超高音を楽々クリア。タイを緩める仕草までして、今から行くぞ!という余裕綽々。唖然。こりゃ、やられた!
彼の声は、デリケートなピアニシモから上向するメロディとともに、全くむらなく美しくクレッシェンドするところが他の人にはないものだ。私は三階席の壁際だったので、オーケストラの響きともども、やや音量差が極端に聞こえたが、後半二階正面に移動すると、そんなことはない。これは素晴らしい!
他の曲も不満があろうはずもない。
「清教徒」、サッバッティーニがぎりぎりのところで歌ったのも感動したが、やはりこんなふうにゆとりを持って歌われると、うーんと唸ることに。「愛の妙薬」なんて、舞台で観たいものだ。
新国立劇場の「セヴィリアの理髪師」での獅子奮迅の大活躍から、まだ日も経っていないが、あの舞台でも見せていたエンターティナーぶりをリサイタルでも十二分に発揮していた。終始リラックス。
拍手に応えて、舞台に登場すると指揮台に飛び乗っておどけて見せたり、投げキッスの嵐。アンコールでは舞台袖から最初顔だけ出して、ワンタイミングおいて出てきた彼の手には、ギターが…。新国立劇場の舞台を観た人はそれだけで判る。指揮台に腰掛けてセレナーデを歌うと、やんやの喝采。
何とアンコール二曲目は、あの大アリア。これはたまげた。このアジリタはちょっといま右に出る人はいないのでは…。
オー・ソレ・ミオでは突如客席に降りて、なんと1階席を一周して歌う。あちこちで握手。こりゃ演歌歌手も真っ青。
それで終わりかと思うと、最終最後はきっちりアリアで締める。
今日でまた、熱狂的シラグーザ・ファンが増えただろう。もっとも、私は最初に出てきたスキンヘッドがシラグーザだと、全く気づかなかったのだけど。