新国立劇場「アラベッラ」 ~ 11年ぶり、因縁のオペラ
2003/2/2

金曜日のお昼すぎ、S席ど真ん中を5000円でという書き込みを発見し、即メールしたものの出遅れ敗退。初日のスクランブルはならず。そんなことで、最近では珍しい2日目の鑑賞となる。
 このオペラ、最初に観たのが1988年のバイエルンオペラの来日公演でした。その後、1992年にも同じサヴァリッシュの指揮で聴く機会があったが、それがスカラ。
 「なんで、ミラノまで来て、ドイツオペラなの」とは、15年目の特別休暇で同伴したカミサンの弁。
 「まあ、そんなことゆうても、しゃあないやん。ウィーンでドミンゴのオテロ観たから、ええやんか。ここは、いろいろ買い物もできるし」

とは言うものの、やはり残念、スタジオーネシステムは旅行者には恨めしい。スカラで観た唯一のオペラが「アラベラ」だなんて。彼の地での中島康晴さんのロドルフォの大成功の話を聞くにつけ、なおさらの感があります。

公演のチラシ

と言うわけで、私にとっては因縁のアラベラですが、CDすら持っておらず、ナマしか聴いたこのないオペラというのも珍らしい。しかも3度目の鑑賞だし。

本日のキャストは、シンシア・マークリス(アラベッラ)、小森輝彦(マンドリカ)、天羽明惠(スデンカ)、経種康彦(マッテオ)、鈴木敬介(演出)、若杉弘(指揮)、東京交響楽団という顔ぶれ。

この登場人物にはどうも感情移入できないし、音楽も美しいけれど人工的な臭いがつきまとう。積極的に観たい聴きたい作品じゃないというのが、これまでの印象だ。

さて、今日は、"Tutti bravi eccetto Arabella(アラベラ以外はすべてよし)"という感じ(このイタリア語は正しいのかな?)。

天羽明惠さん、素晴らしかった。初日の中嶋彰子さんは聴けなかったが、伸び盛りの人はすごい。昨秋、ツェルビネッタとリューを立て続けに歌って、いずれも立派な歌を聴かせてくれたから、期待はしていたものの、それに違わず。彼女が歌うズデンカには感情移入できる。演技の自然さという点では、まだ発展の余地はあるが、歌としては本当に立派。出演者随一だったと思う。クリアな発声、ピアニシモでもよく通る声、的確な心情表現、充分に満足できる出来映えだ。

全く逆だったのが、タイトルロールのマークリス、カーテンコールでは結構な拍手をもらっていたが、私は???

いつもの天井桟敷なので、そのせいもあるかも知れない。彼女の歌は半分ぐらい聞こえなかった。声が出ないという訳ではなさそう。強い声は出る。ただ聴いていて、「....o○○...○o...○o..」という風に聞こえる。「...」のところは歌っているのか、そうでないのか、何を言っているのか、さっぱりなのだ。意識してピアニシモを強調したということでもなさそう。声が出にくい音域を誤魔化しているのか、メリハリをつけているのか理解できないが、すくなくとも私には美しい響きからほど遠いものがあった。ちっともレガートでなく、ギクシャクとして、音楽の流れを殺しているだけと…

今回は変則的なキャスティングで、無理に中一日でマークリスが歌うより、大倉由紀枝さんのクリーミーヴォイスを聴けたらどれほどよかったか。

主役がこれなのに、トータルで満足できた公演になったのは、若杉弘指揮の東京交響楽団の功績大ということだと思います。正直、アラベッラの歌うところでは、私はオーケストラを聴いていた。

このオペラでは、歌よりもオーケストラが登場人物の心理をつぶさに描くというところがある。まさに、そのような演奏だったし、歌手に不満があっても、それを補って余りある力演だったと思う。いつもの東京フィルとは違って、ホルンを含む木管群の表情が豊かだ。やはり新国立劇場は専属オーケストラを持つよりも、シャトレ方式(パリ、公演毎にオーケストラは替わる)がいいのかなと思ったりする。若杉さんに、びわ湖レベルの仕事をここでも継続的にしてほしいものだ。

男声陣は健闘、予想以上だった。何しろ、綺羅星のごとくそろった女声陣に比べ見劣りするのは否定できない国内オペラ界だけど、いや、捨てたものではないという感を強くした。小森さん、経種さん、見事な出来だ。イタリアものよりも、こういうオペラのほうが日本の男声陣には適性があるのかも知れない。

演出は、びわ湖でお馴染みの鈴木さん、第二幕から第三幕への転換は舞台機構をフルに使ったもので見せるが、大がかりな割にはやや冗長で、なあーんだという感じ。その間のオーケストラの間奏は聴きものだったけど…

第二幕の舞踏会のピンク主体の内装、時代考証的にどうなのか判らないが、ひと昔前のラブホテル的なイメージで、どうかなあと思った。階段の手摺りが金色、柱がピンクの補色の緑だから、エッという色彩感覚だ。

ともあれ、タイトルロールを除けばオールジャパンキャスト、その主役がいまいちとは、うーん、これは二期会の「ばらの騎士」が楽しみ。

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