「当惑した家庭教師」 ~ レアものブッファ、大当たり!
2003/2/22

東京オペラプロデュースの公演に足を運ぶのは三度目。一昨年のヴェルディ「二人のフォスカリ」、昨年のR.シュトラウス「無口な女」。滅多に聴くことが出来ない演目が多く、ついチケットを買ってしまう。失望と満足の次はどうなるかと、やや不安も抱きつつ、なかのZEROへ。

行ってよかった。これは、とても楽しめた。
 もちろん、初めて聴くオペラなので、予備知識は何もなし。でも、お話はいたって単純、親に内緒で隠し子まで設けた長男が、しっかり者の恋人のおかげで許しを得てメデタシメデタシというもの。次男の家庭教師が狂言回し役で、ドタバタの中心になるのでこの題名なんだろうが、主役は間違いなく長男の恋人ジルダだ。

ドン・ジューリオ(父親):杉野正隆
 グレゴーリオ(家庭教師):柴山昌宣
 エンリーコ(長男):内山信吾
 ジルダ(長男の恋人):松尾香世子
 ピッペット(次男):石川誠二
 レオナルダ(家政婦):小野さおり
 東京オペラ・プロデュース合唱団
 東京ユニバーサル・フィルハーモニー管弦楽団
 指揮:松岡究
 演出:松尾洋

ロッシーニかと思うような、早口の歌、軽妙な掛け合い、そしてあのクレッシェンドが随所に出て来る。これまでに聴いたドニゼッティの作品とは随分イメージが違う。作曲者名を知らされなかったら、絶対に間違ってしまいそう。

演奏はよく仕上がっていた。出だしはアンサンブルにやや不安を感じたが、すぐに好調の波に乗ったようす。かなり練習を積んだと思われる。

何と言っても、ジルダ役の松尾香世子さんが素晴らしい出来、仕草、表情、もちろん歌と、これぞブッファのヒロインという感じでチャーミング、魅力たっぷりだった。家庭教師に父親へのとりなしを懇願する二重唱、前半の勢いたっぷりの部分から後半の哀願調への対比の妙、見事な歌い分けだ。そして、幕切れのアンサンブルをバックにした長大な歌、ロッシーニ「セヴィリアの理髪師」のアルマヴィーヴァ伯爵のアリアと対をなすのではと思うほど。こういうところもロッシーニの影響かしら。しかし、見事なフィナーレ。

男声陣はそれぞれ問題点はあるが、全体の仕上がりを傷つけるほどのものではないし、家庭教師の柴山さんはじめ、そろって力演だった。父親役の杉野さんは、深い声が魅力的なのだが、もう少しクリアに前に声が出てほしい。長男役の内山さんは、アンサンブルでの健闘の反面、アリアでのスムースさに欠けるところが。次男役の石川さんはバカ息子ぶりを強調したのだろうが、ドタバタに走らず歌そのもので可笑しさを出してほしい。家政婦役の小野さんは、松尾さんにひけをとらない熱演、二人のデュエットは歌も芝居も乗っていた。

オーケストラもブッファらしい軽やかさがあって好感が持てた。ここのピットは深く、声を邪魔することがなかったのもいい。1階端っこの席だったが、中央の関係者招待席とおぼしき列の2列目がきれいに空いていたので、特等席で鑑賞させてもらった。7~8割ぐらいの入り。

とてもたくさんのオペラを書いたドニゼッティ、まだまだ隠れた傑作がありそう。

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