藤原歌劇団「イタリアのトルコ人」 ~ Bravissima!佐藤美枝子
2003/3/8

ピエール・ルイジ・ピッツィの演出・装置・衣装がとても洒落いる。これは、なかなかの見物、とってもセンスがある。モンテカルロ・オペラからの借り物のようで、舞台の後ろ半分を1mほど高くして、それをさらに細く三分して真ん中に溝を作っている。ここを装置を載せた畳二畳ほどのミニ舞台が左右に動く。

オーケストラ席(平土間)から見ていると、奥の高い舞台がスライドしているように見えるが、天井桟敷から見下ろすと、その溝の中には黒子が何人も…。彼らが不自由な姿勢で、何と人力でミニ舞台を動かしているのだ。こりあ、大変だ。こういうオペラブッファになると、場面転換が頻繁だし…。それもあって、カーテンコールに溝から飛び出したネズミ男軍団には大きな拍手。私は第一幕を5階R2列、第二幕を1階8列で観たので、見え方の違いがよく判った。

衣装の色彩感覚には脱帽。一人ひとりを見ると、まるで上方の漫才師のようなド派手な衣装なのに、コーラスも含めて集団になったときの色彩の華やかさとそのコンビネーション。うーん、これはやられた。

狂言回しの詩人役、ロレンツォ・レガッツォは全日出演。これは舞台を観ると合点がいく。出番が多く、当然に台詞も多い。芝居が上手い人でないと務まらない。もちろんアンサンブルでの声も要求されるし。いやあ、お見事。

ヒロイン、フィオリッラの年の離れた亭主、ドン・ジェローニモは久保田真澄さん。好調だった。こういうブッファの役も随分こなれてきている感じだ。

五郎部俊朗さんのドン・ナルチーゾという役は、テノールを登場させるために無理矢理ロッシーニが書いたような感じで、ドラマのメインストリームには絡まない。傍観者的ではあるが、ちゃんとアリアがあって、見事な歌を決めてくれた。アンサンブルの中でもはっきりと耳に届く独特の声で、日本では得難いロッシーニ歌い(のテノール)、好きな歌い手だ。

題名役の矢田部一弘さんは、ホワイエに大きな花輪が飾ってあったことを見ると、これが初の大役ということか。これまで新国立劇場の脇役での登場は何度かあった。しかし、ちょっと残念な結果となった。緊張があったのだろう。声の下支えが弱く芯のない響きになり、登場の場面の歌の高音も不安だらけでした。即断してしまうのはいけないので、今後の精進に期待というところか。

同じく、私にとって(たぶん)初お目見えだったのがセリムの元恋人ザイーダ役の牛坂洋美さん。いいメゾソプラノだ。最初はちょっと固い感じもあったが、劇が進むに連れて歌も演技も伸び伸びとしてきました。これから期待できそう。

さて、フィオリッラの佐藤美枝子さん。明日聴くデヴィーアがどんな具合か判らないが、見事な出来映えだ。一年前にもこの二人がダブルキャストの「カプレーティとモンテッキ」(ベッリーニ)で聴き比べしたが、私は正直なところ、遜色ないどころか、ソプラノは佐藤さんに一票という感じだった(メゾは断然ソニア・ガナッシだったが)。

佐藤さん、期待を裏切らない。コンクール優勝以来何度も聴いていて、どんどんスケールアップしている。演技もプリマらしい余裕と貫禄が出てきた。もちろん歌は言わずもがな。

亭主の久保田真澄さんとの長いデュエット、前半と後半の変化の妙、テンポを揺らせて出す音色は本当に魅力的。そして、幕切れ直前のアンサンブルをバックにした大アリア。この小柄な体躯から出る声の威力!ピアニシモから長く伸ばした音で綺麗にクレッシェンドするところなど、ゾクゾクする。これでなくっちゃね。

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