新国立劇場「ジークフリート」 ~ "S"はジークフリートの"S"?
2003/3/30
名古屋に、大阪に、最近は神出鬼没の私。そして、今日は、ご近所初台に。
玉川上水緑道を歩いて新国立劇場に向かうと、既にお花見モード。あーあ、これが幡ヶ谷住まい最後の新国立劇場か。
大阪でオペラ三本分を凝縮したグルベローヴァのリサイタルを聴いたばかりだが、こちらも充分にオペラ三本分。二回の休憩がそれぞれ45分なので上演時間は超弩級。2時に始まり8時に終わる。
これはご近所暮らしの最後を飾るにふさわしい公演、昨年のワルキューレは演出の面白さばかりに目が行ったが、ジークフリートは音楽だけでも充実の極み。最初と最後の30分を別にすれば、大変な水準の演奏だったと思う。最初は、午前中の引越準備の疲れで退屈なシーンについウトウト、最後はブリュンヒルデに、ん、という感じ。
準メルクル指揮のN響の底力を見せてもらった。管楽器奏者のレベルが全く違う。日本広しと言えど、上手い人は少ないということなのか。安心して聴ける。これは世界のメジャーハウスのレベル。少なくともロンドンなどよりはずっと…
歌手もとてもいい。最後に登場するブリュンヒルデのスーザン・ブロックだけが問題だった。この人は発声に無理がある感じで、声も傷んでいるような。まだ若い人かと思うが、この歌い方では先が思いやられる。
ジークフリートのクリスチャン・フランツ、これは素晴らしい。長丁場を歌いきるスタミナも大したものだが、朗々たる美声、こんな人がいたんだ。
さすらい人(ヴォータン)のユッカ・ラジライネン、ミーメのゲルハルト・ジーゲルも聴かせる。出番は短いアルベルヒのオスカー・ヒッレブラント、ファフナーの長谷川顕、エルダのハンナ・シュヴァルツ、森の小鳥の菊地美奈、各キャストに人を得て、充分すぎる出来だったと思う。
演出はいつもながら楽しませてくれる。これぐらいやってくれないと、ワグネリアンじゃない私は退屈してしまうもの。
第1幕は、ジークフリートの料理ショーさながら、レトロな感じのアメリカ風の電化製品やバーベキューセットを使って、ノートゥンクが鋳造されるのは笑える。ジークフリートが着ているTシャツの胸には"S"のロゴが、そう、これはスーパーマンのロゴだ。でも、これは、ジークフリートの"S"かな?
第2幕は、これまたアメリカのハイウェイ沿いにありそうなモーテル風のシチュエーション、動物や小鳥さんが着ぐるみで出てくるところはセサミストリート風。
ここでは、菊地さん、体当たりの演技、空中遊泳は浮き上がるだけでなく、回ったり逆さまになったり、幕切れでは着ぐるみを脱ぎ捨てて…
でも、私は、ここのヌードは演出の必然性を感じた。次の第3幕で、ジークフリートが怖れを知ることになる、初めての異性、ブリュンヒルデとの出逢いの象徴という意図が明白だ。
第3幕では、回転するジクソーパズルの巨大ピースの上での、エルダとさすらい人の歌と演技、そして場面転換して巨大なベッドの上でのブリュンヒルデとジークフリートとのデュエット、極端にデフォルメされた装置で傾斜がきついから、歌手も大変だ。
前の出し物から1か月以上もあけて、指環がスケジュールされるのは、充分なリハーサル期間をとっているからなのだろうか。
それはともかく、神々の黄昏でジグソーのピースがどのように収まるのか楽しみだ。もちろん、私、大阪から遠征するつもり。