グルベローヴァの「ノルマ」 ~ 最初と最後、西と東
2003/4/29

東京を離れる直前の3月末、大阪出張の折にシンフォニーホールで来日公演スタートのリサイタルを聴き、そして、みどりの日、最後の「ノルマ」を聴く。この間1か月。グルベローヴァは、随分と長い滞在になる。

東京の前売りチケットはあらかた処分したのに、これだけは手放さなかった「ノルマ」、何たる強運、意図した訳ではないのに、東京出張の用件が入る。なんてったって、寒い日の早起き、都内を横切って片道交通費500円もかけて某穴場ぴあに一番乗りしてゲットした最安チケットだもの…

さて、この「ノルマ」、こんな音楽、歌だったっかしら。何度かナマで聴いたことはあるのに、ちょっと今日のノルマは特別。大阪のリサイタルを聴いたとき、「ノルマ」の成功は充分に予想できたが、それにしても、この人は何という歌い手なんだろう!奇跡!

いつも最安席しか買わない私が、これまでに購入したチケットの最高額は3万円、それはいずれもグルベローヴァのときだ(他は2万円でも手を出さないのに)。それだけの価値のある人だと思うし、期待を裏切られることがない。そして、今日も。

終演後のスタンディング・オベイションは滅多に見られる光景ではない。ソロの素晴らしさは言うに及ばす、第1幕の終盤と第2幕の中盤にあるアダルジーザ役のカサロヴァとのデュエットはほんとうに陶酔的だ。声が溶け合うところでは、二人の顔は自然に10cmぐらいに近づいています。

グルベローヴァ、第2幕の感情の起伏とドラマティックさ、「チューダー朝の女王」リサイタルで予感したとおりの、圧倒的な表現。これから欧米でも、この役を歌うのかどうか知らないが、ロールデビューを日本で果たしてくれたことは比類のないこと(多分、レコーディングしていたのではないかな)。

今日の唯一の傷は、第1幕のラ・スコーラ(ローマ総督ポリオーネ役)の不調。登場のときから何だか腰の据わらない歌、音色が全く安定せず、アリアの高音域は破綻こそ免れたもののヒヤヒヤものだった。

ところが、第1幕幕切れの三重唱から復調、エンジンがかかり出した。第2幕は全く不安なし、まさに別人のよう。グルベローヴァのインスパイアの凄さだと思う。

オーケストラも然り、シュテファン・アントン・レックという指揮者のドライブがいいのかも知れないし、二回の公演の後の千秋楽ということもあるだろうけど、グルベローヴァに触発されて実力以上のものが出ているように思えた。ピットに入ると不満の多い東京フィルなのに、今日はケチをつけるところは、ほとんどなし。そう言えば、大阪のリサイタルでも、大阪センチュリー交響楽団は一段上の演奏をしていた。

なぜコーラスがスロヴァキア・フィルハーモニー合唱団なのか、いぶかしく思っていたし、イタリア語で歌っているように聞こえないのだが、グルベローヴァの出身地のコーラスにサポートさせたということだろうか。ボリューム感はあるし、メリハリも効いているにしても、私はやや違和感を覚えた。

演奏会形式なので、オーケストラのコンサート同様に舞台上部に反響板がある。私は東京文化会館のややデッドな音が好きなのだが、歌の場合はあれはない方がいいと思う。

普段は気になるオバサマたちの飴の皮むき音も聞こえず、Casta Divaのときなど、恐ろしいほどの静寂、舞台と客席の交信が確かに感じられた素晴らしい公演だった。

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