大植英次/大阪フィルの「復活」 ~ エイジ・オブ・エイジの到来?
2003/5/10

30年以上も前のこと、私は大阪フィルで「復活」(マーラーの第2交響曲)を聴いたことがある。もちろん会場はフェスティバルホール、指揮台にはまだ壮年期の朝比奈隆。そして、長い年月の後、いままた大阪フィルの「復活」を聴く。場所はシンフォニーホールに変わり、あの時の御大よりずっと若い音楽監督だ。

昨夜の演奏会の模様が、朝刊の社会面に載るなんて、極めて異例のこと(産経新聞大阪版)。大植監督初の定期演奏会だし、バイロイト音楽祭で「トリスタンとイゾルデ」を指揮することが決まったという最近のニュースもあったし、話題性には事欠かないというところだろう。長く空位だった音楽監督がようやく就任したということも。
 定期演奏会も二回公演になり、第二夜の定期会員の私は、いそいそとのつもりが、開演ギリギリの駆け込みになってしまった。

今シーズンの定期会員募集のパンフレットには、「エイジ・オブ・エイジ」というキャッチコピーが踊っている。これは、なかなか気が利いている。ただ、そのとおりの大植時代が出現するかとなると、これから1年間聴かないと、何とも言えないなあという印象だ。

30年前の演奏は覚えていないが、その間のオーケストラの技術の向上は大変なものがあると思う。いまではアマチュアオーケストラでもこの曲を採り上げるぐらいだし、況わんやプロは。
 まずいところは皆無じゃないにしても、ソロ楽器は上手になった。中盤の楽章でのフルートの持続音が綺麗で音楽的なこと。合わせるピッコロも上手い。先日、東京フィルでがっかりしたばかりなので、なおさら。

第2楽章、第3楽章が見事な出来映えだったと思う。従来の大阪フィルでは滅多に聴けないセクション間の受け渡しの丁寧さ、表情の豊かさ。反面、第1楽章は、各パートの遊びがなく、窮屈な印象を受けた。力が入りすぎなのかな、マーラー特有のテンポの揺れも大きくなく、ストレートに突っ走るという感じ。ベタベタ、ドロドロよりはいいのだけど、エネルギーが溢れる割にはあっさり感が漂う。声楽が入る最後の二つの楽章は、ちょうどよい心地よさ(ソプラノ菅英三子、メゾソプラノ寺谷千枝子、大阪フィルハーモニー合唱団)。

この世代の指揮者にありがちな自意識過剰というところは、大植さんには見られないようだ。変に音楽をねじ曲げず、自然さを感じさせるところは好感が持てる。
 とにかく、音楽監督就任後のデビュー公演だから、プレイヤーの遊びと指揮者のドライブが調和した名演が披露されるまでには、少し時間がかかるだろう。

2年前にチョン・ミュンフンが東京フィルのポストに就いたとき、採り上げたのもマーラーの「復活」。そのときも、私は定期会員になったばかりだったが、都合がつかず、友だちに行ってもらった。その彼は酷評、世間の評論家諸氏は諸手を挙げて絶賛だった。その後の、「魔弾の射手」を聴いて、友だちのほうが正しいと思ったが、1年後の「蝶々夫人」には脱帽。そんなものだろう。時間がかかる。

大植さんは、今のところ、ここ大阪で創り出す音楽よりも、それ以外の部分で注目され、人気が高まっているようだ。でも、それも持って生まれた運だし、実力のうちだろう。名実ともに我が街の音楽監督になる日を期待したいもの。

終演後、ホワイエに降りたら、あっ、まだやっているんだ!シンフォニーホール名物、パンの大安売り。楽屋裏にサインをもらいに突進するファンもいれば、7種類ぐらいの袋詰め500円のパンに殺到する食いしん坊も。もちろん、私は後者。おばさま、おねえさま方に、混じって…大阪やのう。

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