ガッツァニーガ「ドン・ジョヴァンニ」新国立劇場小劇場 ~ 200年前の剽窃
2003/5/15

新国立劇場の小劇場オペラシリーズの10作目、初日を観た。いやあ、驚いた。ガッツァニーガ「ドン・ジョヴァンニ」、これはモーツァルトの同名作とそっくり。同年(1787年)の初演だそうだ(モーツァルトが後)。

早い話が、ダ・ポンテは、このガッツァニーガの作品(台本:ベルターティ)を拝借したと言うか、下敷きにしてモーツァルトの台本を書いたことは歴然。200年前なら、この程度はどうってことなかったのだろう。今の時代なら、破廉恥な盗作と糾弾されるだろうし、少なくとも著作権侵害で訴訟沙汰は間違いないところだ。

面白かった。何と言っても、長くないのがいい。私はモーツァルトのダ・ポンテ三部作(あとの二つは、「フィガロの結婚」と「コジ・ファン・トゥッテ」)は、いずれも無駄が多く長すぎると思っているので、ちょうどいい長さだ。

ドラマはほとんど同じ、主要登場人物はこちらのほうが二人多い(ドン・ジョヴァンニのお相手ドンナ・ヒメーナと下僕のランテルナ)。短い理由は、ドンナ・アンナとドン・オッターヴィオの扱いが軽いこと、ツェルリーナ(当作品ではマトゥリーナ)とマゼット(同ビアージョ)の場面が短いこと、コーラスの登場場面も少ないことなど。登場人物もアリアも短め、あれやこれやで、休憩を入れても2時間半で終わる。

それでも、ちゃんと、レポレッロ(同パスクァリエッロ)のカタログの歌もあるし、色男の地獄落ちの後の、幕切れの六重唱まであるのだ(これはモーツァルトに比べて冗長)。

レチタティーヴォが多い。チェンバロとチェロによる伴奏で、最初の頃は二つの楽器の呼吸がいまいちの感じ。だんだん良くなってきたが。オーケストラは弦五部にオーボエ、ホルン(何とかならんのか!)が加わるという簡素なもの。

印象的だったのは、田舎娘ツェルリーナ(マトゥリーナ)をドンジョヴァンニが口説く場面。ここは、レチタティーヴォで進んでいきます。ソプラノのナンバーが続くが、それはもうYes!という気持ちになったあとの心情吐露でしかない。
 モーツァルトがここのデュエットで書いた音楽の凄さが判る。バリトンとソプラノの掛け合い、テンポの変化、転調、オーケストラでの悪魔的な心理表現、それらを駆使して、ツェルリーナが陥ちる過程を描いた天才の音楽が今に残るのは当然か。

歌手はなかなかの好演だった。ドンナ・エルヴィーラ役の松原有奈さんが出色、題名役の大野光彦さんも立派な声、パスクァリエッロの黒木純さんは声の演技過剰で私は好まないが、悪くはない。

半分近くは観た小劇場オペラ、今回は再演までされた「ねじの回転」に匹敵する完成度だと思う。たまたま東京への出張が決まり、すぐに掲示板に「買います」を出したら、運良く譲っていただいたチケットだった。東京のセカンダリーマーケットは厚みがある。

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