ベッリーニ大劇場「ノルマ」びわ湖ホール ~ カターニャは片田舎にあらず
2003/6/21

月初の「タンクレーディ」に続いて、今月二度目のびわ湖ホール。ともだちが急に行けなくなって、ピンチヒッター。自身のオペラ気違いぶりを隠さないから、自然とできる同好のネットワーク、思わぬときに助かることに。

びわ湖ホールが出来てから、引越公演が関西からスタートするパターンが多くなった。首都公演の前のウォーミングアップかと思うと、そんなことはない。看板歌手が登場するし、こちらのほうが出来映えも良いくらい。風光明媚な湖岸をのんびり散歩し、素晴らしいオペラハウスの舞台に立つと、演奏にも波及効果があるのかも知れない。

公演のチラシ

ノルマ:ディミトラ・テオドッシュウ
 アダルジーザ:ニディア・パラチオス
 ポリオーネ:カルロ・ヴェントレ
 オロヴェーゾ:リッカルド・ザネッラート
 指揮:ジュリアーノ・カレッラ

キャストの最後にある指揮者の名前、クソミソに酷評した覚えがある。そう、あれは昨年11月の新国立劇場「トロヴァトーレ」だった。今回、前売チケットに食指が動かなかったのは、そのせいだ。それに、グルベローヴァのノルマの直後だし…

でも、今日のノルマ、オーケストラもコーラスも、先のトリエステ歌劇場より格段にいい。指揮者も心配したものの、大丈夫。

序曲では、いきなりティンパニの高い音がヘンだし、先のフレーズに急ぐようなところがあり、「またか!」という気持ち無きにしもあらず。しかし、アンサンブルが破綻するわけでもなく、各パートが無表情になることもない。

これは、やはり、ご当地ものということで、ベッリーニの音楽が体に染みついているからなんだろうか。コーラスも同様。月並みだけど、郷土の大作曲家への愛情かな。

カレッラ氏、今日は抑えめだったのか、第2幕になって、変なルバートや、煽り立てる片鱗が出るが、キレるところまでは行かず、一安心。ソリストやオーケストラが、よく合わせていたと思う。

第1幕のポリオーネの登場のアリア、ヴェントレという人、声にあまり魅力を感じないが、高音も安定して危なげがない。このアリアで転けたら、(他の出演者も含め)後のリカバリーが大変なのだ。ラ・スコーラ(4月のノルマ)よりも安心して聴けた。

そして、テオドッシュウのノルマの登場です。"Casta Diva"の歌を聴いていると、やはりグルベローヴァよりずいぶん声が若いし、若さの力がある。ちょっと最高部はぶら下がり気味の感じがするが、それでも立派な歌だ。

ドラマが進むにつれて、エンジン全開になってくる。普通は、どんどん良くなって、と言うところだが、私は逆にだんだん引っかかるものを感じた。大勢のアンサンブルの中から、ピットの最強奏の上を飛び越えて、声が飛んでくるのは凄いのだが、ここはNHKホールじゃない。そんなに出さなくても…

歌い手の間のバランスの問題もあるし、私にとって疑問だったのは、強烈なアタックがベッリーニの旋律線を殺しかけている箇所がいくつも耳についたこと。

アダルジーザがポリオーネとの関係を告白し、ノルマが激高する場面、ノルマの歌と言うよりもマクベス夫人の歌のように聞こえる。それでいいのかなあ。ドラマティックと言えば、確かにそうなんだが…

アダルジーザのパラチオス、なかなかいい歌手だ。テオドッシュウとあまりにも声質が似ているので、対比感が希薄なのが残念。デュエットなのに、声が溶け合い一人で歌ってるように聞こえるときも。それはそれで、きれいなことには違いないが。

オロヴェーゾのザネッラートも悪くない。

こう見てくると、今回の歌手、テオドッシュウ以外は名前を聞くのも初めての人ばかりなのに穴がない。私が知らないだけで、ベッリーニ大劇場では、お馴染みの顔ぶれなのかも。峠を越したビッグネームよりも、こういった歌手たちのほうが、よほど好ましい。オーケストラ、コーラスともども、オペラを観たという感じがする。

好みという点では、私にはぴったり来るとは言えないけど、ドラマティックで素晴らしいノルマと感じる人も多いと思う。

なお、演出、舞台装置等については、え、何かあったの、という程度か。

旧ハプスブルグ帝国のトリエステなんぞより、はるかに田舎のシチリア、カターニャ。これはパスしちゃおうなんて、大変、失礼いたしました。

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