アントニーノ・シラグーザ@いずみホール ~ 大阪がよく似合う
2003/6/22
金曜日の午後、取引先を訪問し会社に戻ってきたとき、外国人二人と日本人一人の三人連れとすれ違った。ホテルニューオータニ大阪の前、いずみホールの隣だ。
すれ違ってから、あのスキンヘッド、どこかで見たような気がするなと考えたら、たぶんあれはシラグーザ。日曜日のリサイタルに備えて滞在中かな。木曜日が福岡でのリサイタルだったから、ちょうど到着するころだ。大阪城への散歩にでも出かけるところかも。でも、お腹が相当出ていたなあ。舞台姿とかなり違うし…
まあ、そんなことはどうでもいいが、「これは、いいぞお」とカミサンに言ったばかりに、チケットを二枚購入、二人で出かけるのは、昨年の甲子園(阪神タイガースじゃなく、畑儀文さんのシューベルト)以来になる。おっと、違った。最近のグルベローヴァのリサイタルも一緒だった。でも、ヴァドゥーヴァの「ボエーム」(ベッリーニ大劇場@フェスティバルホール)とダブルヘッダーなんて言ったら、間違いなく張り倒されるので、そちらは断念。
ピアノ伴奏は、パオロ・バッラリン、プログラムは次のとおり。
ドニゼッティ「愛の妙薬」より「人知れぬ涙」
チレーア「アルルの女」より「フェデリーコの嘆き」
ベッリーニ「清教徒」より「いとしい乙女よ、あなたに愛を」
プッチーニ「ボエーム」より「冷たい手」
ドニゼッティ「連隊の娘」より「ああ友よ!なんと楽しい日!」
--- 休憩 ---
トスティ「かわいい口もと」「最後の歌」「暁は光から闇をへだて」
ピクシオ「マリウ、愛の言葉を」
エマヌエル・カル「シチリアの朝の歌」
ダッラ「カルーソー」
アンコールは、ヴェルディ「リゴレット」より「女心の歌」、そして、「グラナダ」、ロッシーニ「セヴィリアの理髪師」のセレナーデ、「オ・ソーレ・ミオ」、「帰れソレントへ」の5曲。
昨年12月のリサイタル(東京芸術劇場)はオーケストラがバックだったので、喉休めのインストルメンタル・ピースが間に入ったが、今日はぶっ通し。前半、5曲立て続けに、このアリアをこなすとは大変。新国立劇場のアルマヴィーヴァを、全日歌っただけのことはある。
この人は、消え入るようなピアニシモから、超高音のアクートまで、発声に全く無理がない。聴いていてほんとうに安心、こちらも心から楽しむことができる。
「清教徒」のアリア、サッバッティーニがいっぱいいっぱいで歌った曲なのに、唖然とする軽やかさ。曲想まで全く違う印象だ。爽快。
昨年のリサイタルにはなかった「ボエーム」、la speranza のところがどうなるかなんて、気にする必要は全くない。アリアの一部始終を楽しむことができる。
最初の「愛の妙薬」は、座席のせいか、ちょっと響きに違和感を感じた。いずみホールのバルコニーはオーケストラだと響きはいいのだが、声楽だとかなり間接音が耳につく。
二曲目の「アルルの女」になると、直接音だけを聞くように耳を慣らしてきたので、ノープロブレム(それともシラグーザがアジャストしたのか)。
前半の最後、「連隊の娘」にはカミサンもびっくり。高音を引っ張り上げるように出すのじゃなく、一発でヒットさせる気持ちよさ、とのこと。そのとおり。
前半にアリアを並べ、後半に歌曲を集めるというのは、普通と逆のパターン。どれも聴かせる。特にピアニシモの美しさは絶品。「マリウ、愛の言葉を」の終わりなんて…。それに重ねたブラーヴォ男、あれは万死に値するぞ。後半、最前列に移動していて、後方からその声を聞いたときには、ガックリ。お隣さんと、「あれは、ひどい!」「ぶち壊しですよね!」
私は池袋のリサイタルを聴いているので、予想どおりなのだが、アンコールにはカミサンもびっくり。サービス精神があふれている。800人のホールに500人ほどの聴衆なのに、さすが大阪、お客さんもノリがいい。
日曜夜のコンサート、ボエームとのバッティングを避けたのかも知れないが、残念ながら阪神巨人戦とぶつかるとはね。例年なら、「猫」になっている時期なのに、今年はどうしたことか…。昨夜にしても、今夜にしても、大阪の飲食店は閑古鳥が鳴いているはず。