笠松泰洋「姉イピゲネイアの犠牲」 ~ 歌手、林正子の犠牲!?
2003/7/23

公演のチラシ

コンサートやオペラの帰り道、電車の中で演奏を反芻しているうちに、ホームページに書く感想文のタイトルが浮かぶ。そして、さらさらと書いて、「てにをは」を直して出来上がり。でも、ちょっと、今日のタイトルは刺激的かな?

この種の、何だかわからないパフォーマンス・アートに出かけることは多くはない。今日のいずみホールのお客さんはオペラ系、ダンス系、芝居系、コンテンポラリー系、さまざまのようだった。笠松泰洋の作曲・指揮による王子ホール委嘱作品、ライブハウス型オペラと称していますが、これはいわゆるオペラからはほど遠い作品だ。

朗読(中嶋朋子)、舞踊(白河直子)、歌(林正子)を担う三人により演じられるギリシャ悲劇、トータルでは結構楽しめた。中でも舞踊の素晴らしさ、確かに日本の最先端でしょう。アンサンブルも名手揃いで、これはちょっとやそっとのものではない。朗読と言うか、ほとんど芝居も大熱演。ただ、歌が大きな穴だ。

笠松泰洋さんという人は、才気あふれる人のようだ。だが、オペラや声楽の語法には長けているとは思えない。何とも平板な歌だ。これは歌手の責任ではなく、間違いなく作詞作曲の責任だと思う(もっとも、林さんも完調でないのか、数か所で汚い音を出していたが…)。

私は、決定的に声楽としての作曲語彙が不足している印象を持った。朗唱的と言えば確かにそうなのだが、狭い音域と間延びした長めの音価の連続、そのくせ、日本語としての自然なリズムやイントネーションかと言うと、そうでもない。1/3は何を言っているのか聞き取れないのだから。

これから一年一作のペースで「エレクトラ」三部作として完結させるとのことですが、こと歌に関しては、技量を磨いてもらって、この作品もリライトするぐらいの気持ちでやってほしいものだ。

アンサンブルは見事。特に、休憩後の後半開始の即興演奏からドラマに入っていくあたり、ちょっとクラシック系の演奏会では経験できない面白さ。前の席の熟年カップルなんて、チューニングの続きだと思っているのか、照明が徐々に落ちてきて入るのに、まだおしゃべり。私が肩をトントンと叩いて舞台を指さしたら、ハッと気づいていた。それほど自然な導入。

中央アジア系の楽器も混じって、響きはオリエンタルな雰囲気だ。親しみやすいテーマやリズム、ティンパニを思わせるドラムスの使い方など、楽器の料理の仕方には感心するところしきり。それだけに、歌が…

終演後のスタンディングオベーションは、間違いなくダンス系のお客さんだと思う。

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