ミラノスカラ座来日公演「マクベス」 ~ シーズン到来なんだけど
2003/9/2

こんなに高い値段のオペラ、リッカルド・ムーティは好きな指揮者じゃないし、あっさり見送りを決め込んでいたら…何と東京出張の予定が!交通費の負担がなくなったら、俄然浮上した「マクベス」、初日(政争の季節に首相ご臨席はブラックジョーク風)の評判もまずまずのようだし。

公演パンフレットより

チケットレス突撃敢行かと思えば、ありがたやチケット掲示板、即決E席。開演18:00というのは、休憩3回をたっぷりとるからか。これは普通の勤め人にとってはつらい。終演は22:00過ぎ、お腹もすくぞお。

後半の幕の初め、それまではムーティ氏登場の度に律儀にBravo!だった5階席の人、このときはBravo, nostro maestro!と叫んでいた。ちょっと待ってよ、私が付け加えるならNo, tuo!(私も一緒にしないでほしいなあ)

今日のマクベス、私が一番素晴らしいと思ったのは、第3幕のバレエ音楽だ。踊り自体はそんなに立派だとは思わなかったが、オーケストラの見事さ、音のうねり。この、どちらかと言えば退屈な音楽を、居住まいを正して聴かせるというのは、マエストロと手兵の実力の程だろう。

この場面を境にオペラの興趣がようやくという感じ、第4幕の冒頭のスコットランドの亡命者たちのコーラスは圧倒的だった。

私がムーティのオペラを好まないのは、歌が窒息しそうな伴奏ということに尽きる。判りやすい言葉で言えば、せわしくて、やかましい。アリアのつなぎの部分のすっ飛ばし方や、歌手に恨みでもあるのかと思うような硬質のフォルテの連続(それも均一)、インストルメンタルピースのバレエ音楽があんなにいいのに、ソリストが入るとどうしてああなるんだろう。昔からずっと変わらないなあ。不思議。

前半・後半で感銘度が違うのは、マクベス夫人を歌ったパオレッタ・マッロークの前半の出来の問題かと思う。第1幕第2場のシェーナとカヴァティーナ、第2幕第1場のシェーナとアリア、この極めて重要な歌に力不足を感じてしまった(手紙を読むところは気に入ったけど)。高音域の軽さと低音域の暗さとのコントラストと言うよりも、音質の不連続がヤケに耳に付いて…。強烈な印象を与えるはずの上向フレーズでのパンチ不足もあったし。

後半、マクベスとのデュエット、第4幕第2場の夢遊の場では違和感を感じなかったので、そのころにはエンジンがかかってきたのだろうか…

終始素晴らしかったのはコーラスと、レオ・ヌッチのマクベスだ。昨年、フィガロ(セヴィリアの理髪師)で聴いたのとはキャラクターも全く違う役だけど、大ベテランは凄い。全盛期の声の力はなくなっているのだろうが、それを感じさせない。この性格俳優的な役柄なのに、過剰に走ることはなく、ヴェルディの息の長い旋律線は決して崩れない。ピットの音楽とは対照的だ。

その他のキャストでは、マクダフを歌ったサルヴァトーレ・リチートラは期待はずれ。美声だったのかも知れないが、声の傷みを感じる。スカラ座で歌うような人なのかしら。テノールの人材不足は深刻だ(彼の地でデビューを果たした中島康晴クン、いけるぞ)。

対照的にバンクォーのイルダー・アブドラザコフは美声、しかしこちらは言葉が不明瞭なのが残念。

グレアム・ヴィックの演出は何と言っていいやら。余計なことをせずに音楽の邪魔をしない点は評価できるにしても、いかにも低予算版。今どき新バイロイト様式というのもねえ。二年前の藤原歌劇団のマクベスの演出のようなセンスは感じられなかった。

何と言ってもスカラ座だしこの料金だから、それなりのものを期待するのは当然。したがって、ちょっと辛口のコメントになるのはやむを得ないか。

ジャンルのトップメニューに戻る
inserted by FC2 system