二期会「ルル」(3幕版日本初演) ~ ファム・ファタールとの邂逅(?)
2003/11/22

頻繁に東京出張していた仕事が一段落したのはいいが、そこで困った「ルル」のチケット。悩んだ末に、やっぱり遠征。週末のお留守番とクリスマスシーズンの買物が、その代償となる。
 今、聴き逃したら、この先チャンスはないと、東京行を手配した途端に、来シーズンの新国立劇場の演目発表。何と、フリードリヒ・ツェルハ補筆の全3幕完成版が採り上げられるらしい。ま、いいか、今回がこの版の日本初演だし、来年、観られるとは限らないし、出張のときと違って東京でのんびり過ごすのも…

ブーレーズ指揮によりパリで初演された「ルル」三幕版のCD、手許にあって何度か聴いているが、こういう作品だと、やはり舞台を観なくては。音だけでルルを鑑賞するのはかなりきつい。舞台上で登場人物の絡みがあり、ドラマが進行し、字幕で概要を知るに越したことはない。

ただ、このオペラでは登場人物が多く、特に、三つの場面からなる第一幕では、事前にしっかりとプロットを確認しておかないと混乱してしまう。共通して登場する人物もいれば、全く別のキャラクターも、しかも同じ歌手が何役かを兼ねたりしているので、余計に錯綜する。
 このあたり、オッフェンバックの「ホフマン物語」と似ているが、あちらよりも「ルル」では各シーンが短く凝縮されていて、台本(字幕)だけでは説明不足の感もあるので、要注意。

沼尻竜典指揮の東京フィルの演奏はいつになく精妙だ。最近このオーケストラを聴いていないので誤解があるかも知れないが、今回の日本初演に向けて相当に練習を積んだのだろう。透明感のある音というのか、特に印象的なメロディがあるわけでもないこのオペラの音楽が美しく聞こえくる。各楽器の巧拙はともかく、それぞれのフレーズが充分に考えられ、磨かれているような印象があった。ありきたりの言葉で言えば、室内楽的と言うのか。

ピットに比べると、舞台上の歌手の音量が大きすぎる印象がある。PAを入れているのだと思うが、ここまで増幅しなくてもいいのに。私が座ったのは三階席中央最後列という音が集まってくる座席というせいもあるが、日生劇場という、さほど大きくない器だけに、ちょっと違和感を感じた。

期待と不安をもって臨んだ天羽明惠さんのルル、この難役を熱演だった。でも、ちょっとイメージが違うんだなあ。少女の面影を残した妖婦というふうにルルを捉えるなら、どっちつかずの中途半端な印象が残る。何人もの男の人生を狂わせるファム・ファタールという感じがしない。
 歌唱を云々するのではなく、演技を採り上げるのはいかがかという気もするが、これはかなりドラマに重心が置かれた作品だけに、物足りなさを感じた。二度目の上演(11/24)では、こなれてくるかも知れないが…

シェーン博士・切り裂きジャックを演じた大島幾雄さん、シェーン博士の息子アルヴァを歌った福井敬さん、いずれも熱演。福井さんはあんなに歌ってしまうのが、この作品の音楽に合うのかどうか判らないが…

演出は佐藤信、美術・衣装がレギナ・エッシェンベルク、白を基調としたシンプルな装置、舞台を斜めに区切る幕を兼ねた大きなパネル、プロジェクターの利用、全体にすっきりとしているが、舞台上の人の動きがドラマと寄り添うわけでもなく、あまり意味が感じられず今ひとつ。

脇役陣では、ゲシュヴィッツ伯爵令嬢の小山由美さん、劇場の衣裳係・ギムナジウムの学生・ボーイの三役をこなした林美智子さんの存在感があったし、画家を演じた吉田浩之さんは好調な歌だった。

土曜日、18:00開演というのは地方からの遠征組にとってはつらい。休憩を挟んで終演が22:00。往きはJR東海の企画商品「ぷらっとこだま」(新大阪・東京10000円、ドリンク付)でのんびりだが、帰りはそういう訳には…

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