「シチリアの夕べの祈り」本邦初演@びわ湖ホール ~ 横山恵子さんに脱帽
2003/11/29

びわ湖ホールのエントランスを入った左手にあるオープンスペースの資料室、ここに私の本棚が1列ある。公共のスペースを占有して恐縮だけど、1987年以降のOPERA NEWSを寄贈したらこうなってしまったという次第。ホールがオープンする頃にちょうど私も転居、収納スペースがなくなったのを機に寄贈を申し出たら、気持ちよく受け容れていただいた。以来、びわ湖ホールに行くたびに、最新号まで何冊かを持っていく。今回は6月のトリエステ以後なので、7月号から11月号まで。
「いつもありがとうございます」とインフォメーションのおねえさん。オペラの前に気分が良くなる。

この若杉弘さんのプロデュースオペラは、最初の「ドン・カルロ(5幕版)」から皆勤賞、ヴェルディの本邦初演をずいぶん観せていただいた。そして、今回は中期の大物、「シチリアの夕べの祈り」なので、期待が高まる。チケットも完売のようだ。何と言っても、オーケストラのコンサートでも頻繁に採り上げられる序曲に続いて、今日はオベラの幕が初めて上がるのだから。

とは言いながら、実は、そんなに高望みをしていた訳ではない。指揮とオーケストラ(京都市交響楽団)、コーラス(東京オペラシンガーズ+びわ湖ホール声楽アンサンブル)、演出(鈴木敬介)・装置(イタロ・グラッシ)・衣装(スティーヴ・アルメリーギ)のチームは回を重ねて、安定してかなりの水準が期待できるし、今回も裏切られることはなかった。
 ただ、このオペラとなると、やはりソリストだ。

今日の公演、不満はいっぱいある。でも、救いはエレナ公女を歌った横山恵子さんの出来が素晴らしかったこと。主役クラスを多数揃えないと上演が難しい作品だけど、誰がキイロールかと言えばやはりエレナ公女だと思う。もちろん、恋人役のアッリーゴも至難のテノール役だし、その父親役のグイード・ディ・モンフォルテも極めて重要。でも、要の女声がコケてはオシマイになるオペラだと私は思っている。

終幕のボレロの軽やかさ、冒頭の叙情的なカヴァティーナと初期作品のようなスピントを要求するカバレッタ、アンサンブルの中心にいて、大オーケストラとコーラスを突き抜けて響く強靱な声。横山恵子さん、そんなに大きな声の人ではないと思うが、芯のある通る声だ。当然初めての役だろうが、充分に練れているし安定感も随一、本日のキャストで図抜けた存在でした。

アッリーゴの水口聡さんについては、私はどうしてもネガティヴになってしまう。
 第1幕、これはいったいどうなるんだろうという感じ、声はスカスカ、パッサージオ(音域・音質の移行するゾーン)の安定感などさらさらなし。でも、不思議なテノールだ。両端の幕を別とすれば、声も出ていたし、表面的にはきれいな声だし響きだ。それだけ聴いていれば、「よかったわあ」になりかねないのだが、決定的に問題なのは、言葉に対する無頓着さだ。ほとんど歌詞が聞き取れない、何を言って(歌って)いるのか判らない、終始それが気になって、私には音楽どころではない。
 言葉が不明瞭だから、アリアの、デュエットの、アンサンブルの、歌の品格が著しく共演者に見劣りする。口跡の悪さのため歌唱の輪郭がぼやけてしまって、どうしようもない。少なくとも、ヴェルディでは誤魔化しが効かない。
 言葉に対する無神経さでは、ジョーン・サザランドのデビューの頃も同じような問題があったようだ。でも、それを等閑視させるほどの声の威力があればこそ。ちょっと、その域には遠い。

直野資さんのグイード・ディ・モンフォルテ、聴かせどころはテノールとのデュエットなので、そこで私が楽しめなかったせいもあるが、いつもの安定感を感じることはなかった。第3幕の冒頭のアリアもヴェルディのこの時期のものにしては傑作とは言い難いし…

シチリアの革命志士であるジョヴァンニ・ダ・プローチダを演じた小鉄和広さん、私は声が好みではないので偏った見方かも知れないが、登場の「ああ、パレルモ」は今ひとつ。もっと深い響きが欲しいのだが、のっぺりした平板な印象が否めない。ドラマの中でのやりとりなどは、悪くないと思ったのだが…

今回の公演、衣装が見事だ。落ち着いた色調でありながら、とても綺麗。その分、装置に予算が回らなかったのか、円形劇場を模したようなシンプルな造りを使い回ししている。
 バレエはどうなるのかなと思っていたが、長大な「四季」のフルヴァージョンを演奏。ダンサーは熱演だけど、流石に音楽は冗長感がある。

なんだかんだと文句の多い自分だと思うし、もっと素直に楽しめたらいいのになあ、と思わなくもない。ようやく本邦初演となった巨匠の大作、それだけでも有り難く拝聴すべきかも知れない。今回のテノールとバスのキャストが、びわ湖ホールでも常連の福井敬さん、妻屋秀和さんであれば、心底感銘できたかも知れないと思う私。

なお、このチームのびわ湖ホールでのシリーズ、来年は「第1十字軍のロンバルディア人」とうこと(2004/10/16・17)。

ジャンルのトップメニューに戻る
inserted by FC2 system