関西フィル/NPO法人発足記念特別公演 ~ 仰天!マエストロは101歳!
2004/2/20

昼間、中之島の日本銀行大阪支店のあたりを歩いていたら、スーツバッグとヴァイオリンケースを持ったシルバーグレーの長髪の男性とすれ違った。煙草をくわえて、東京の千代田区あたりでは罰金のスタイル、かく言う私もヘビースモーカー、「住みにくい世の中になりましたなあ、ご同輩」というところ。

そう言えば、中央公会堂で何かあるとか、どこかで見たような…。虫の知らせと言うべきか、Web検索すると、あったあった、関西フィル・コミュニティコンサートなるイベント、二人の看板指揮者のそろい踏みだ。

プログラムは、次のとおり。
 チャイコフスキー:弦楽セレナーデ(指揮:藤岡幸夫)
 マスカーニ:歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲(指揮:中川牧三)
 モーツァルト:交響曲第41番「ジュピター」(指揮:飯守泰次郎)

お値段は、4000円の自由席、これまた動物的カンと言うべきか、チケットをいただけそうな気がして、当日券窓口あたりでキョロキョロしていたら…。私に余り券をくださった紳士、まことにありがとうございます。私も、ときどきこんなにふうに差し上げることもあるので、お互いさま。

休憩前に登場した特別ゲストの中川牧三という方は、1902年のお生まれということなので、何と101歳。しばらく前に、確か日本経済新聞の最終面の記事でこの人のことを読んだ記憶があるが、何とまあ…。
 この前、この公会堂が出来たころに指揮したことがあって、とても懐かしいとおっしゃる、それは79年前ということ!

イタリア時代にはマスカーニとよくメシを食ったというのだから恐れ入る。近衛秀麿氏とともにベルリン留学、指揮をクレンペラーに、作曲をヒンデミットに学んだということ。その後イタリアに移り、声楽の世界に。まあ、当時のことを知る由もないが、破天荒なキャリアだ。

恐るべし、ご長寿、杖もなしに歩いて登場、指揮台には椅子が用意されていたが、腰掛けることもなく短いインテルメッツォを指揮。プログラムには、他に「トラヴィアータ」の第1幕前奏曲があったが、「本番前に血圧を測ったら200あったので、ぶっ倒れたらあかんので、ひとつだけにしますわ」なんておっしゃる。これで、私も「101歳の指揮者を聴いたぞお」と自慢できそう。

藤岡幸夫さんは、私は初めて。大阪フィルの大植英次さんと甲乙つけがたいハンサムボーイだ。会場には若い女性ファンも多く見られた。おっと、コンサートマスターの席に座っているのは、昼間の歩き煙草の人ではないか。東京公演のときは、ご注意ですよ。

弦楽セレナーデは、これまで何度かナマで聴いているが、これだけ各セクションがはっきりと聴き取れたことはない。分離がとてもよくて、各声部の動きが手にとるよう。音楽の構造がとてもくっきりと見通せる。ほら、これが、ソナタ形式、主題が二つで、その対比、ここから展開で、こんなふうに料理しているんですよ。それが終わって再現、さらに全曲通して、最初と最後は同じ旋律が出て来て、きっちりまとまる。これは良くできた構成の傑作ですね。

チャイコフスキー自身は「自分の技法はすぐにネタが割れてしまう」というようなことを言って卑下していたらしいが、私は立派なものだと思う。そんな構造的な部分を浮き上がらせた藤岡さんの演奏だった。

さて、飯守泰次郎さんの「ジュピター」、素晴らしかったのは第2楽章だ。楽器間の対話、受け渡し、とてもとても神経を使っていたと思う。自然さを損ねないように、それでいて、各パートはきっちりと弾(吹)かせる。

この曲、二週間前に、この会場と中之島図書館を挟んで100mも離れていない大阪市役所の玄関ホールで大植英次/大阪フィルが演奏したばかりだ。私は、その直前にいずみホールで聴いたが、そのとき感じた前半楽章の違和感は、今日の飯守さんの演奏では全く感じられない。第1楽章が重くて仕方なかった大植さんと違い、弾んで流れるモーツァルト、私の好みはやはりこっちだなあ。

そんなに数多く聴いたわけではないが、飯守さんの演奏はハズレがない。もっとも、それは得意のレパートリーから逸脱しないからかも。一週間後の同じコンビでの「魔弾の射手」のチケットを手放したのは早計だったかな。でも、あれは素晴らしい聴き手に引き取っていただいたんだから良しとしよう。

最後に、大阪市中央公会堂について。

重要文化財に指定されている赤煉瓦の建物、私が東京にいる間、ずっと修復工事中だったが、リニューアルされてきれいになった。今はほとんど死語となった「春闘」の集会で30年近く前に中に入って以来だが、構造はそのまま、面目を一新している。外観は、この建物だけを切り出したら、小振りにしても、ヨーロッパのオペラハウスと見えないこともない。ライトアップもされて、半地下にはお洒落なレストランもあるようだ。

内部はシューボックス型で1階の客席の周り、大理石の柱から壁まで、それぞれ5mぐらいの距離がある。このスペースが音響的にややデッドなホールにしていると思うが、私は過剰な残響のないここの音は気に入った。演奏で感じた抜けの良さ、各声部のクリアさなどとも関係しているかも。客席は1000に満たないようで、コンサートの機会は多くないのが惜しいところ。ミュンヘンのヘラクレスザールで聴いたときのことを思い出した。会場の雰囲気がよく似ている。

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