新国立劇場「神々の黄昏」 ~ 季節は巡り
2004/3/26

とうとうこの日がやって来た。
 とっても面白いキース・ウォーナー演出の四部作、シリーズ完結編には東京を離れても駆けつけるぞと心に決めていたものの、年度末のこの時期、休暇を取るには周到な準備・根回しが必要。私にとっての僥倖は、息子が大学に合格し、住まい探しに付き合う必要があって云々という大義名分ができたこと。そうでなけりゃ、16時開演で6時間もかかるオペラを平日に東京まで観に行くなんて、他人の目には酔狂としか映らないだろう。でも、会社休んで(?)初台の初日に来ている人の多かったこと。

演出の面白さでは昨年の「ジークフリート」が一番、それに音楽自体は「ワルキューレ」が良くできていると思うから、完結編といえども「神々の黄昏」はちょっと分が悪いかなあ。前三作の装置が、若干のアレンジを伴って、次から次に出現する。それを見ると、「ああ、あれは、あの場面で使っていたセット…」などと、記憶がよみがえってくる。音楽自体もいろんなライトモチーフが随所に再現して、総集編ならではだが、いまいち、物語の凝縮度は乏しい感じ。
 そして、完結編として全てのピースが一つに揃うというコンセプトは指輪の形状(ジグソーのピースの形)からしても明らかだが、どうもそれが納得感を伴ったものではないし…

第一幕だけに登場するヴァルトラウテを歌った藤村実穂子さんが、やけに存在感があったし、グートルーネの蔵野蘭子さんの歌と演技は主役のコンビを喰ってしまうほどだ。そう思うのも、この作品でのジークフリート、ブリュンヒルデのドラマに芯がなく、挿話や脇役のほうに目が移ってしまうからだろうか。それとも、主役の出来映えにインパクトがなかったせいかしら。藤村さんはいつもの写真よりも、今度の舞台姿はずっといい。使う写真を替えたらいいのに。声といい、歌といい、出番は短いながら出色。

蔵野さんは「ワルキューレ」のときの体当たり演技も目立ちましたが、今回のグートルーネの演技も(歌も)素晴らしいもの。ジークフリートとすれ違ってしまう彼女の悲劇が客席に伝わって、最も感情移入できる登場人物になっている。

クリスチャン・フランツのジークフリートは、昨年に続いての登場。明るい声のヘンデンテノールは私は好きだが、今回の歌は前作ほどのレベルではなかったような…。さりとて、特段の問題があるわけではない。
 ガブリエーレ・シュナウトのブリュンヒルデ、27日のBキャスト、昨年も聴いたスーザン・ブロックの出来が良かったらしく、そちらを聴けず、ちょっと残念な気もするが、シュナウトも決して悪い出来ではない。ただ、長丁場、声の威力を発揮するのはいいにしても、ハートを鷲づかみにするような歌ではなかった。
 この二人、ブリュンヒルデは前作でジークフリートが着ていたSのロゴのTシャツ、ジークフリートはブリュンヒルデを意味するBのロゴのTシャツで登場するのも、いかにもチープでポップなこの演出らしい。

アルベリヒのオスカー・ヒッレブラント、グンターのローマン・トレーケルは可もなく不可もなくという感じ。今回のAキャストでは、前述のとおり邦人メンバーが大健闘、ハーゲンの長谷川顯さんはその最右翼か。演出的には出ずっぱりに近く、その意図が不明なところもあって気の毒な感もあったが、こんな役をこなせる人が出て来たんだと思うと感慨深いものがある。私が「神々の黄昏」を観るのは二度目、前回は長い年月をかけて四部作に取り組んだ二期会の公演だった。

三人のノルンのキャストもすごいものだ。和製ブリュンヒルデの緑川まりさんが第三のノルンを歌っている。もっとも、コスチュームやメイクはお気の毒な感じ。

準・メルクル指揮のNHK交響楽団、軽いと言うか、クリアな響きだ。新国立劇場のピットに初登場だった「ジークフリート」のときの意気込みに比べると、オーケストラはややルーチン化した雰囲気も漂っているが、優秀なプレイヤー揃いであることは疑いない。あっさりと始まったジフリートの葬送行進曲の終盤の凄まじい高揚は演出と相俟って見事。

「ラインの黄金」こそ見逃したが、徐々に評判を上げて四年目、ここに完結したプロダクション、細かいところにケチをつければいろいろあるだろうが、観ていて面白い「指輪」、実現に暗雲が垂れ込めているとかの噂もあるようだが、四作通し上演を期待したいものです。

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