大植英次/大阪フィル定期「春の祭典」ほか ~ 不協和音の快楽
2004/4/22

2年目に突入した大植英次/大阪フィル、もちろん、大阪の人間としてはとっても期待していたものの、わずか1年、去る2月の「レニングラード」で到達した高みには正直仰天というところ。そして、新しいシーズンに。
 定期演奏会への音楽監督の登場は、4回(8公演)が予定されている。今夜は、その初め。プログラムは、次のとおり。

ラヴェル:ラ・ヴァルス
 ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番
   ピアノ:ファジル・サイ
 ストラヴィンスキー「春の祭典」

大阪フィルの音がどんどんクリアになっていく。ホールのせいもあるのだろうが、早期退職で大阪に戻ってきた先輩、2年ぶりに聴いた大阪フィルの音に驚くことしきり。「あのころと同じオーケストラとは思えない!」

普段、あまり興味が持てず、居眠りをしてしまうことの多い休憩前のコンチェルト、私にしてみれば、これが今夜の演奏の白眉かな。

トルコの人らしい、ファジル・サイというピアニスト、この世界には暗いので知る由もないが、見ていて愉しい。全身で音楽をやっている。おやすみになった左手は空を彷徨い指揮者の表情付けそのもの。そしてオーケストラのほうを向いての百面相、いつもは弾き振りをやっている人かしら。大植さんにとっては、領域侵犯という感じだが、なんのその、オーケストラの合わせが精妙。メンバーとサイ氏とのアイコンタクトのせいか、大植さんのリードか。

いずれにせよ、見せるピアニストだ。自分の世界に没入するのではなく、オーケストラを触発させるところがある。
 アンコールも大判振舞い。まずは、モーツァルトの「キラキラ星変奏曲」、アンコールピースとしては長めだが、間然とするところなし。鮮やかで愉悦に満ちた演奏というところ。それで終わりかと思えば、自作「ブラック・アース(黒い大地)」というオマケ付き。この人、作曲もするらしいが、なかなかの優れれものの作品。いかにも文明の交差路の出身らしく、西と東が融合したような不思議な音楽だ。華麗な鍵盤演奏と東洋の臭いがする内部奏法の絶妙な融合。ピアノの蓋の中に手を突っ込んで弾くのを見るのは、大井浩明さんのリサイタル以来。

前後のディアギレフのバレエ作品。「ラ・ヴァルス」では優美な表情と鋭角の切り込みの対比が見事。「春の祭典」は、ややテンポが重いような気もしたが、もはや古典となったこの作品、不協和音の強烈さも耳に優しく感じられるのは、私たちが21世紀を生きる人間だからか。

それにしても、音響がクリアなのは聴いていて気持ちがいい。これには抵抗感のある人もいるかと思うが、全て暗譜で終始オーケストラと真っ正面で対峙する大植さんの長所かな。

さて、大植さん、NHK教育テレビの「トップランナー」に出演するらしい。5/23(日)19:00放映ということ、でも、たぶん、私は忘れてしまいそうだなあ。

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