大植英次/大阪フィル「青少年のためのコンサート」 ~ enfant terrible
2004/7/14

大阪市民でなく奈良県民、青少年でなく中年オヤジ、そんな私が聴きに行ってよいコンサートなのか、ちっとも悩まず全席自由1500円のチケットを早々に購入。いそいそとNHK大阪ホールに出かける。
 チラシなどで発表されていたプログラムは、次のような内容だった。

第1部~夢と冒険 ~ ヒーローVSヒロイン
  ワーグナー:ワルキューレの騎行
  ワーグナー:「ローエングリン」第3幕前奏曲
  リムスキー=コルサコフ:「シェエラザード」第3楽章
 第2部 ~ 宇宙への夢
  ホルスト:「惑星」より「火星」、「金星」、「木星」
   (構成)新井鴎子
   (司会)朝岡聡
   (指揮)大植英次
   (オーケストラ)大阪フィルハーモニー

プログラムはいかにも、初めてのクラシック、「青少年のための」という感じだ。なお、「曲目・内容等は変更になる可能性がございます、ご了承ください」とも書かれていたが、始まってみると、「こういうことだったのか!」という趣向、なかなかの構成の妙です。

朝岡アナの紹介で颯爽と登場した大植さん、指揮台ではなく、何故かステージ中央に置かれたピアノに向かうと、ムソルグスキー「展覧会の絵」の「プロムナード」を弾き始める。このピアノ、チラシでは書かれていない休憩直前の曲と思っていたら、「こういうことだったのか!」、意表を突くオープニングだ。

なるほど、プログラムには、ムソルグスキー「展覧会の絵」より「プロムナード」としか書かれていない。ということは、当然、これをラヴェル編曲のオーケストラバージョンでもやるということ。ピアノとオーケストラでプロムナードを通しで演奏したあと、二つの部分を採り上げて、改めてピアノとオーケストラで対比して聴かせる。確かに、こうすれば、初めてオーケストラを聴く青少年(以外も)にとっても、オーケストラの表現力の豊かさは一目(耳)瞭然。

ピアノ演奏は、本人も言うように、そんなに大したものではないのですが、大植流パフォーマンス、なかなかやってくれる。これで会場にいる人たちの関心を一気に引きつけてしまうのですからご立派。

オマケと言っては何だが、プログラムにも書かれていないブラームスのハンガリー舞曲第5番を客席に向かって指揮、「ラデツキー行進曲でなくて、こういうテンポの揺れがある曲で手拍子できるのは、ハンガリー人と大阪人だけ」とか、客席をノセるのもお上手。そりゃまあ、同じアジアの血が流れているからだろう。

さて、来年のバイロイト(「トリスタンとイゾルデ」)に先駆けて、大阪フィルとは初めてのワーグナー。まあ、例えて言うなら陽光の下のワーグナー、輪郭のはっきりしたメリハリのある演奏だ。曲が曲だからそうなのかも知れないが、ワルキューレの響きにも毒がない。

隣に座った友だちは先日の定期演奏会のブルックナーを聴いているが、今日のワーグナーと共通する印象があるとのこと。私は聴き損ねたコンサートだが賛否両論があったのも何となく判るような…

こんな感じでワーグナーの全曲をやられるとどうなのかと思ってしまいますが、舞台があるとまた違って来るのかも知れない。ちょっとトリスタンの響きがどんな風になるのかなあと想像してしまう。まあ、あちらではドイツのオーケストラがビットに入るのだから、同じではないだろう。
 そんなことに思いが至るのも、この日の大阪フィルのブラスが大張り切りで、元気いっぱい、まさに「青少年のための」コンサート。

客席も、ほんと青少年が多い(もちろんオジサン・オバサンもいるが)、ブラスバンドでもやっていそうな高校生の一団があちこちに。男子よりも女子がずっと多くて、開演前や休憩時間の賑やかなこと。「指揮者に質問」コーナーでは「ハーイ」と二階席でも大勢が手を挙げて。「そこまで行けないよ」と朝岡アナ。でも、演奏が始まると、立派なマナーだ。

「シェエラザード」からは一曲だけ、このコンビの演奏にぴったりで、人によってはワーグナーに感じるだろう違和感は、こちらでは全くない。

舞台にピアノが入っていたのは、これ。予告されていなかった「ラプソディ・イン・ブルー」、何とソリストも青少年ではないか。高校生かしら。松永貴志という新進気鋭のジャズ・ピアニストらしい、と言っても、うちの息子と同じ年格好でラフな半袖シャツで登場。既にブルーノートレーベルからCDも出しいているとか(それも最年少らしい)、ピアノは独学、教則本もやったことがないとか。

この曲、私はあまり聴く機会がないが、こんなに長かったかなあ。ピアノソロが縦横無尽にアドリブを入れているのかなあ。大フィルのメンバーがジャズっぽく演奏しきれていないところがあるのに、この青少年は自由闊達、ノリノリだ。いやはやenfant terrible、大植/大フィルを向こうに回して立派なもの。アテネで日の丸を揚げるのは、こういう若者なんだろう。

この類のコンサートに出かけたのは、とっても久しぶりだ。面白くて盛りだくさん。休憩後は「惑星」からの三曲とアンコールの「スターウォーズ」だったが、元が取れたし、前半で帰ってもよかったかな。

NHK大阪ホールは、渋谷のそれとは大違いの新しいホールで、定員はあちらの半分ぐらい。イメージ的に東京芸術劇場を二回りぐらい小さくした感じか。まだ音が硬い。エージングには時間がかかる。

大きなガラス張りの壁から大阪城を望んでエスカレータで上っていくが、これが大問題。上階にはホールがあるのに、このエスカレータしかないのというのは、開演・終演時の人の流れや数を無視した欠陥設計だ。安全よりもデザインというバカな建築家、いつ何があっても不思議じゃない。

このホールのオープンは、2001年5月7日(竣工記念式典)で、明石花火大会での歩道橋事故(死者11人)が起きたのは、同年、2001年7月21日だった。したがって、あの事故の教訓をホールの設計に活かすということは不可能だが、今からでも遅くない、NHKとしても、事故が起きる前に、設備の手直しを考えてほしいものだ。

開演前、エスカレータ前の1階フロアでは、何名かの係員が出て、入場者を整列させて、上階の混み具合を見ながら順次誘導していた。そのこと自体、他の音楽ホール、サントリーホール、シンフォニーホール、東京文化会館などでは、全く必要のないことであり、設備の欠陥を補うための措置ということが明らかだ。

より危険なのは、人が一時に集中しエスカレータが下り運転となる終演時だ。聴衆としては、ここの設備が改善されない限り、拍手もそこそこに会場を出るか、舞台が空になっても10分ぐらいは席に残るという自衛策を講じることが賢明かも。

ジャンルのトップメニューに戻る
inserted by FC2 system