ウィーンの森バーデン市立劇場「コシ・ファン・トゥッテ」 ~ 奇妙なオペラ
2004/9/26

ヨーロッパのローカルな歌劇場の地方巡業は、よほど聴きたい演目か歌手でもない限りは無視しているのだが、これは私の地元の奈良で、しかも宝くじ文化公演とかで、格安1500円席が大量に提供され、つい買ってしまった。前売り発売日、30分前に会場に着いたら、前に並んでいたおばさま二人連れが一挙に20枚近く買ったにもかかわらず余裕でゲット。

しかしまあ、奇妙な公演だった。
 会場入口では144ページにも及ぶプログラムが"無料"配布。パッと開けばヴォーカル・スコアが序曲からNo.10のテルツェッティーノに至るまで収録、各ナンバーの解説も詳細なもの。オマケに漫画「コシ…」まで。なんじゃ、こりゃ!

登場人物の表記も変わっている。ドォラァベェラァとかグゥリィエルモォとか、そこまでやらなくても。原音に忠実ということだろうが、かえってうっとうしい。序曲の演奏中の字幕にもびっくり。フレーズごとにどの楽器か表示、調性の変化もいちいちコメント、まあまあ。

とてもマニアック、プログラムに著者杉本長史とあるので、この人の趣味というかポリシーを貫徹したものか。最終ページいっぱいに書かれた著者紹介も型破りだ。相当に個性的な人のもよう。

私は初めて接したが、毎年一作ずつオペラ・オペレッタ・クラシック・ウィーン・シリーズと称するイベントを1996年から行っているようで、今後の予定公演演目として12作品がリストアップされているなんて凄いものがある。

オペラが始まったら、これまた唖然。えっ、舞台でクチパクやっているのかと思ってしまった。とんでもないPAのおかげで音が舞台上に焦点を結ばない。天井から、背後からの音で、聴くに堪えない無茶苦茶な状態だ。「寝ころんで歌っているのに声量が凄いわ」なんて休憩時間のつぶやきを耳にしたが、あんな口の開け方じゃ大ホールで歌えるはずがない。

東京・大阪での公演は、なし。近郊の武蔵野や奈良での公演というのも肯ける。歌手は知らない名前ばかりで、アンサンブルは悪くないにしても、声にも歌にも魅力がなく、正直言って檜舞台に上がる可能性はゼロに近い人たちだろう思う。

フィオルディリージ:B.カァムプ
 ドラベルラ:E.シュタァルチンゲェァル
 グゥリエルモ:M.アッハライネェァル
 フェランド:D.ヨォハンセン
 デスピーナ:D.ファリィー
 ドン・アルフォンソ:S.ロェッスレェアル
 演出監督:ルチア・メシュヴィッツ
 指揮:クリスティアン・ポーラック
 管弦楽:ウィーン・モーツアルティアーデ管弦楽団
 合唱:バーデン市立劇場合唱団

ただでさえ冗長なこのオペラ、お話の筋は判りきっているわけで、それぞれの歌に聴くべきものがなく、ほとんど時間の無駄という感じだった。同じく奈良(大和郡山)、同じく宝くじ助成、同じ演目で以前に聴いた錦織一座の足下にも及ばない。もうこりごり。地方ではこういうものしか聴く機会がないというのは、オペラの偏在ここに極まれりという感じ。

前日、子供の運動会に行ったところなので、このPAはそのときのBGMを思い出させるものがある。10/3にはびわ湖ホールでの公演があるようだが、PAを使うにしても、あちらではもう少しまともな音になるかも。

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