アジアオーケストラウィーク2004/岩城宏之/大阪フィル ~ 円熟、実りの秋
2004/10/8

この"アジアオーケストラウィーク2004"という文化庁舞台芸術国際フェスティバルの中のシリーズ、最初と最後を聴くことになる。上海と大阪、まあ、ずいぶんと違う。

私の世代のクラシックファンなら、テレビ(ひょっとしたらモノクロ)の画面で、若き岩城氏が汗を飛び散らせて大暴れの姿を見た記憶があるはず。でも、私は、10年あまり前、札幌交響楽団とのブラームスの演奏を聴くまで岩城氏の実演には触れたことがなかった。大昔の演奏とはずいぶん違う、と言うよりも指揮する姿が全然違う。

大病を経て体の無理が利かなくなったのかも知れないが、余計な動きがなくなった指揮者自身と反比例して、音楽自体が洗練され何と自然で雄弁になったことか。以来、この人が指揮台に立つときは、できる限り足を運ぶようにしている。ひとつひとつのコンサートがムーディーズならBaa以上、投資適格だから。この前に聴いたのは東京フィルとのオール・ラフマニノフ・プロ、あんな曲をあのオーケストラで…まさに脱帽ものだった。

今夜のプログラムは、前半が邦人作品、後半が有名曲というもの。
   伊福部昭:管弦楽のための日本組曲
   武満徹:「夢の時」
   徳山美奈子:「大阪素描」
   シベリウス:交響曲第2番

伊福部昭とくれば「ゴジラ」ということになるが、この日本組曲でも野性的なリズムが溢れている。大阪フィルのパーカッションが大活躍だ。一転、武満徹では対照的に繊細な響き、前半プログラムの真ん中に挟んだ緩徐楽章という趣だ。と言うことは、徳山美奈子は伊福部昭に共通するものがあった。ダイナミックな音響、鐘や太鼓の跳梁、オーケストラのパワー全開。

「盆踊り」「七夕」「演伶(ながし)」「佞武多(ねぶた)」という四曲からなる「日本組曲」、「夢の時」を挟んで「プロローグ」「遠国(おんごく)」「祭り」という三楽章の「大阪素描」、どれも面白くて、全部通してひとつのシンフォニーを聴くようだった。
 顔にたくさんの皺が刻まれた岩城氏は老いの影が顕著だが、指揮棒から紡ぎ出される音楽は活き活きとしている。

後半のシベリウス、前半のプログラムの延長かなと思わせるように、音のキレがいいのと、各楽器の音色が明るい。シベリウスらしくない音とも言える。北欧~フィンランド~シベリウス~透明・清澄なんてステレオタイプの連想とは一線を画した演奏だった。

大阪フィルの音はずいぶん変わった。奏者も入れ替わり全体に若返ったせいか、従来のもやっとした響きが洗い流されたような、輪郭のはっきりした音が出るようになっている。月曜日に聴いたオーケストラと違い、このシベリウスは音楽が自然に流れていく。各パートのバランスもこうあってほしいという姿そのもの。もはや晩年となった岩城氏の特長はこういうところにあると思う。"境地"というところに到達した感じだなあ。

アンコールに演奏されたのは、おなじみ外山雄三の「ラプソディ」、これは前半プログラムと呼応するもの。見事な演奏だった。

草野球のあとプロの試合を見たような感じ、ここしばらくスカの連続だっただけに、久しぶりに来てよかったと思えるコンサートだった。お値打ち、わずか1000円、三階バルコニー左側舞台寄りにて。

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