おもろいベートーヴェン ~ ノリントン、ザ・エンターテイナー
2004/11/29

面白い!良かった!という評判を聞きつけ、日本公演の最終日に大阪のザ・シンフォニーホールで聴いた。招待券引換の列が伸びていたので、最後にだいぶばらまいたようだが、客席の入りは7~8分というところ。会場前にはプログラム変更の貼り紙がある。第6交響曲に替えて、第5交響曲。

ウイーンもベルリンも値段を見ただけで縁がないものと無視したが、シュトゥトガルト放送交響楽団は手の届く範囲、しかも四桁価格のチケットが当日売りに残っていた。これはお値打ち、聴き終わった後では、もっとお値打ち。普段めったに聴かないベートーヴェンを、こんなに面白く聴けるとは。

最初の「エグモント」序曲で、「こりぁ、なんちゅう音楽や!」という感じ、ヴィヴラート一切なしのストレートな弦の音、長い音符の途中で、「ぅわぁぁあああぁぁーん」とやるえげつなさ。浮き彫りになる管楽器のフレーズの硬さ、ティンパニの豪打、ほへほへー(と感嘆)。充分に奇を衒った音楽づくりだが、それでいて嫌みにならずすんなりと受容できてしまうヘンな指揮者、ノリントン、私は初めてだ。

プログラム後半の第5交響曲でも、ノリントン節全開という感じ。普通はわずかにポーズを置く箇所も音符(休符)を飛ばしたのかと思うような展開、はへー。と思えば、楽器の対話がきれいに決まる。予定通り(?)、第一楽章終了時には、客席に顔を向けてニカっ、拍手と笑いが起こる。「どう、このアレグロ・コン・ブリオ、けっこうイケてるでしょ」とでも言いたげ。

そう。ベートーヴェン、就中この曲にこびりついたテクストや含意などを蹴散らした演奏というのだろうか。妙に深刻ぶらない、華美流麗なレガートも排除する、あの時代にあってのベートーヴェンの新奇性はこんな感じだったのかも知れないなあと思う。交響曲の間にアリアやピアノソロまで挟んだ往時のごった煮コンサート、そんなときには楽章間の拍手も普通だったのかも。

その点、真ん中のピアノ協奏曲はどうだったのか。児玉桃さんのピアノはチャーミングだったが、ノリントンおじさんの悪童(?)ぶりと比べると、優等生そのものの感じ。ピアノを囲んだオーケストラの配置(桃さんは客席にお尻を向けて)はとてもユニークだったが。
 今年、このホールでピアノ協奏曲第3番を聴いたファジル・サイのような奇人との組合せだったら、驚天動地、とんでもない演奏になったかも知れないなあ。

このオーケストラの雰囲気、いいですねえ。和気藹々という感じ。開演時に全員が揃うまで起立のまま、終演時には各プルトの奏者が互いに握手。もちろん演奏中も嬉々としてやっている様子。お堅いドイツというイメージはなし。あっ、チェロの2列目のおばさん、変わったドレスと思ったら、紋付ではないか!オペラグラスの倍率が小さくて家紋まで同定できなかったが、東京公演の合間に浅草あたりで仕入れてきたのかな。

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