二期会「イエヌーファ」 ~ 東京遠征の甲斐あり
2004/12/3

継母と娘がドラマの上でも声楽的にも重要性をもって対峙するオペラというのは、極めて珍しい部類に入ると思う。あまり例がないだろう。全く初めての「イエヌーファ」の結末を観ながら、私はプッチーニの「修道女アンジェリカ」を思い浮かべた。

どちらも未婚の娘が子供を設けたことに端を発するドラマ、同じようなシチュエーションだ。継母であったり伯母であったり、もっとも近い身内との軋轢でオペラが展開する。問題の子供の死亡が決定的な打撃となることも共通している。しかし、両者の結末は対照的と言ってもいい。

プッチーニの音楽は甘美でありながら、アンジェリカは現世での救いは得られず、敵役の伯母のなすがまま、寂しく不幸な人生を終えるだけ。ただ、死後の祝福を願うのみ。
 一方のイエヌーファ、自らの子供が継母に殺害されるという恐ろしい話だし、ヤナーチェクの音楽も暗く荒削りだ。でも、イエヌーファを慮った継母の自己犠牲によって、彼女は現世での再生に歩み出す。

一見の印象とは違い、人間というものに対し、前者はペシミステイック、後者はオブティミスティックという見方もできるかなと思う。単純な色分けは、ちょっと問題かも知れないが…
 そんなことを考えさせられた「イエヌーファ」というオペラ。陰惨なストーリーでありながら、救いがある。

演出(ヴィリー・デッカー)の力なのだろうか、心理を具象化したような登場人物の動かし方や所作、ちょっと過剰なところがあるにしても許容範囲、ドラマに音楽に貢献していることは疑いない。
 舞台は極めてシンプル、ほとんど装置らしいものはない。舞台を区切る三面の壁を動かして、外と内、光と影を対置していく。衣装や道具は基本的に白と黒のモノトーン。シンプル・イズ・ベストというところか。

圧倒的だったのは第2幕、ここが継母コステルニチカとイエヌーファが対峙する場面、継母の嬰児殺しに至るところです。イェヌーファの津山恵さんと、コステルニチカの渡辺美佐子さんの大熱演。
 先立つ第1幕、ハッとする魅力を第一声に感じた津山恵さんはともかく、全般にやや散漫な印象を持ったが、第2幕からはオペラが全く違う領域に入ったとう感じ。終幕に至るまで、どんどん引き込まれていった。

全く聴いたことのない作品なのに、ヤナーチェクの音楽の力なのか、阪哲朗/東京フィルの予想を上回る求心力のある演奏によるものか、ここまでの充実感を得られるとは正直思ってもいなかった。そうだ、東京フィルは、大野和士の下で、この作品のチェコ語初演を何年か前に行った実績があるんだ。

対立する義兄弟の役はどちらもテノールで、羽山晃生さん(ラツァ)、高橋淳さん(シュテヴァ)の声質が似通っていて、キャスティングとしてはいかがなものかという気がする。二人とも悪くはなかったのだが…

今年が生誕150年で、最近はヤナーチェクの作品も上演される機会が増えてきた。チェコ語(原語)もドイツ語(今回の上演)も解さないので、細かなことは言えないが、近年、メジャーになってきているのは、音楽の濃度の高さなのかな。

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