新国立劇場「椿姫」 ~ プリマドンナ不在の…
2004/12/4

連日、上野(「イエヌーファ」)に通ったほうが良かったかなと思った。新国立劇場のこのプロダクションで2年前に衝撃のインヴァ・ムーラを聴いてしまっただけに、それに匹敵する感動を得られるはずもないことは充分に予想できた。それでも未知のソプラノが「もしや」と出かける業の深さ、報われることが稀なことは判っているのに…

声質の不均一、リズム感の悪さ、言葉の不明瞭さと、三拍子揃ってしまったプリマドンナが歌うトラヴィアータを聴くなんて、苦行に近いものがある。この人、マリーナ・ヴィスクヴォルキナ、ウイーン国立歌劇場でも歌ったことがあるそうな。あちらでは公演のレベルが極端だしアテにはならない。彼の地でステファニア・ボンファデッリが人気を博したように、容姿重視の傾向があるのかな。

第一幕で帰らなかったのは、終演後に約束があったのと、この人以外は新国立劇場の水準としてはかなりの域に達していたからだ。

ジェルモン役のクリストファー・ロバートソンは、私がこの役で聴いた人のなかではベストに近い。ヴィオレッタに欠ける声の「支え」がしっかりしている歌唱だ。カットされることも多い、「プロヴァンスの海と陸」の今ひとつのカバレッタ、言葉の意味を踏まえ単純な繰り返しに終わらないクレバーさを感じる。ヴィオレッタの終幕のアリアの繰り返しはなかったが、本来あったほうがいいにしろ、彼女の歌唱力ではカットが無難と思わせるのと対照的だ。

佐野成宏さんは、私にとって期待を裏切られることが多かった人だ。でも、今回のアルフレードは違った。このオペラだとプリマドンナ不在をカバーできないにしても、それに近い大健闘。声も出る、表情もある、役柄を掌握した安定感がある。なお、この人の言葉が一番イタリア語らしく聞こえるのが面白い。

上野と初台に分かれた東京フィル、昨日の状況からすると、こちらのレベルが心配なところが、これが良かった。ちょっとテンポが重すぎると感じるところはあったし、ヒロインとあわないところも散見。しかし、それは若杉弘さんの責任でもなさそう。

昨日、新国立劇場の芸術監督ノヴォラツスキー氏を東京文化会館で見かけた。今日はもちろん初台だが、彼我の公演をどう見ただろう。興味のあるところだ。新国立劇場がお金をかけ下手な歌手を海外から呼び超有名作品を上演する一方、国内民間団体が触れることの少ない傑作の紹介に留まらない感銘深い上演を行っている現状を。
 とまあ、言い過ぎか。「椿姫」、上演回数は夥しいが、大変に難しいオペラだ。

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