大植英次/大阪フィル定期「サムソンとデリラ」 ~ 復活!福井敬
2004/12/9

前半と後半の差がこれほど大きな公演も珍しい。復活、福井敬さんは開幕から飛ばしていたが、他のソリストもオーケストラもコーラスもエンジンのかかりが遅い。期待が大きかっただけに、ちょっとがっかりという休憩時間だった。ところが…

こうまで変わるものかと思う後半(第二幕・第三幕を休憩なし)の素晴らしさ。ごくたまにしかオペラで味わえない興奮がありました。

第一幕で今ひとつ盛り上がらなかったのは、出だしのオーケストラのバランスの悪さ、きまらないアンサンブル、そしてコーラスの重さ、途中から登場するデリラ役、竹本節子さんの厚ぼったい低音と薄い高音のギクシャク感、アリア「春は目覚めて」は、せっかくの音楽が活きません。

幕開きから続く長大なオーケストラとコーラスのうねりは、よくコントロールされているのだが、如何せん、コーラスはフランス語の響きではないし、いつもの大植/大阪フィルのコンビの出来には遠い感じだった。この中で一人気を吐いていたのが福井敬さん。いきなりパワー全開だ。それと、司祭役の今尾滋さんはなかなかいいバリトンだ。

後半、竹本節子さんの歌ががらっと変わった。薄かったところはボリュームが加わり、厚ぼったかったところは一皮むけた。「あなたの声に私の心は開く」の出来なんて、先のアリアと天地ほども違う。このアリアの他はテノール、バリトンとの絡みが続く第二幕、相手役とのプラスの連鎖が起きていた。

福井敬さんは全幕通して安定した歌唱だ。なかでも第三幕前半の嘆きの歌の切実さ、これは感動的な歌だった。個人的な出来事の影響があるのか何とも言えないが、そんな想像を巡らしてしまうほど。この時期の「第九」をことごとくキャンセルしてサムソン一本にかけた気持ちが伝わってくる。思わず私は、「ブラーヴォ!」

第三幕のバレエ音楽もこれまた圧巻。大植/大阪フィルの本領発揮だ。オーボエの特徴的なソロに始まるこの音楽、舞台がない分、自由自在のオーケストラのドライブだ。完全終止していれば大拍手だったところだろう。ここでこれだけの爆発ということは、声のところはやや抑え気味にやっていたのだろう。

最後の神殿崩しの場面、福井さんの声はいささかの乱れもなく見事にオーケストラを突き抜けて幕切れ。いやあ、オーケストラが舞台に乗ったオペラも面白い。ソリストはオーケストラの前に立ち、三階バルコニー席の私は横から見下ろす位置だけど、それも気にならない後半の熱気だった。

ジャンルのトップメニューに戻る
inserted by FC2 system