若杉弘・大阪フィル定期 ~ クロスオーバー、ジャズ&クラシック
2005/1/27

若杉弘指揮の大阪フィル定期ではクルト・ヴァイルのみの異色プログラムを聴いたことがあるが、これもそれに近い。関西の名門ジャズバンドと大阪フィルの競演、これは聴きものというキャッチコピーだった。前にご本人にお聞きしたら、この曲は以前東京で演奏されたことがあるとか。

最初のプログラムのグルック(ワーグナー編曲)「アウリスのイフィゲニア」序曲は途中から意識不明状態だった。いつもは二曲目に居眠りが出ることの多い私なのだが、今日はいきなり。したがって、論評できず。

二曲目、何という対比なんだ。あっと驚く様変わりだ。面白くって…

北野タダオ&アロー・ジャズ・オーケストラとの競演によるリーバーマン「ジャズバンドと交響管弦楽のための協奏曲」。かなり昔の曲のようだ。リーバーマンという人は、作曲から足を洗ってオペラハウスのインテンダントに転じた人らしい。そう言えば、オペラ関係の本で名前を見たことがある。へえー、その人だったのか!

普段ジャズを演奏していないオーケストラとジャズバンドの競演がどんな具合になるのか興味津々、さすが、うまく曲を作っている。オーケストラとジャスバンドは一部重なるものの、交互にナンバーを受け持つ組曲風のつくり。オーケストラの部分は十二音音楽かつ変拍子という感じで、ジャズバンドはノーマルなビートの音楽だ。その対比の妙、曲想の変化で聴かせるピースのようで、これがなかなか面白い。

三階バルコニーから若杉さんのスコアをオペラグラスで覗いていたが、例によって書き込みやマークがいっぱい。ジャスバンドのところもスコアの記述があったが、鳴っている音符が全部記載されているのか不明。アドリブもいっぱいあるんじゃないかなあ。

普通のひな壇ではなく、オーケストラの後方に一段高くした舞台があり、そこにバンドのメンバーが陣取っている。この配置が効果的だったのは、休憩前のアンコール「A列車で行こう」。
 オーケストラのウインドセクションは後ろを向いて(奏者によっては椅子を逆方向にして)舞台上でのかぶりつき状態。ソロのアドリブが順次披露されると舞台からもやんやの喝采、かけ声。ライブハウスのノリだ。このホールではとっても珍しい光景だろう。

さて、後半はうって変わって、チャイコフスキーの交響曲第4番。ほんと、若杉さんはプロクラミングに凝る人だ。この三曲の並べ方なんて、並の発想では出てこない。

ナマで聴くのはずいぶん久しぶりだが、こんなに暗い曲だったかなあと思った。まあどれも明るい曲ではないにせよ、6曲のシンフォニーの中で一番の陰鬱さを感じさせる。そんな演奏だった。元気のないときは、暗い音楽を聴くと元気が出るものだ。

テンポの運びが重いと言うか、丹念に各パートを鳴らしていくと言うか、華やかさを強調した演奏も可能なはずなのに、その対極のような音づくりと感じた。引きずるようなリズム、高揚したかと思うとすぐに沈潜してしまうメロディとハーモニー。終楽章の爆発も屈託をもったままの音楽。
 チャイコフスキーはこれだなあ。どう見ても健常な神経の人の書いた音楽じゃない。躁鬱を絵に描いたよう。この曲は、特にそうだ。ショスタコーヴィチにも繋がるアイロニーが、ロシア音楽の底流なのかな。

三月には満を持しての東京公演が予定されているが、オーケストラの技量はずいぶん向上した。管楽器の破綻の懸念はなくなったし、ピッチカートによるスケルツォ楽章の弦楽の不気味なうねりなど、昔は期待も出来なかったのに。

チャイコフスキーと言えば、スマトラ島沖大地震チャリティコンサートのチケットの先行予約を会場で受け付けていた。音楽監督大植英次がヒラリー・ハーン帯同で急遽帰国しての開催とか。来月24日ザ・シンフォニーホールでの公演。
  ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」前奏曲と愛の死
  プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第1番ニ長調作品19
  チャイコフスキー:交響曲第6番ロ短調作品47「悲愴」
 なかなか魅力的なプログラムだ。初めて聴くヒラリー・ハーンもさることながら、何と言っても、いよいよ今夏に迫ったバイロイトのお披露目が組み込まれているのが嬉しい。もちろん、早速予約。

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