びわ湖ホール「ジャンニ・スキッキ」 ~ アンサンブルの真骨頂
2005/2/20
日差しは穏やかなのに雪がちらついて、やはり大津は寒い。昨日オークションで格安で譲り受けた完売チケット、例によってOPERA NEWSバックナンバーをデイパックに詰め込んで、びわ湖ホールに出かけた。湖の対岸、比良の山々はすっかり雪化粧だ。
このホールがシリーズで開催している青少年オペラ劇場、びわ湖ホール声楽アンサンブルのメンバーによる「ジャンニ・スキッキ」。1時間で終わるなあと思っていたら、第2部オペラの前に第1部があり、そこではプッチーニの名アリア集、ジャンニ・スキッキ同様に地獄に落ちたヒロイン・ヒーローによる歌という趣向だった。したがって休憩を挟んで2時間の公演となる。
会場で配られたプログラムを見て、思い出した。以前、このシリーズでブリテン「小さな煙突掃除夫~オペラを作ろう」のときもそうだったように、楽譜が掲載されている。あのときも開演前にみんなで練習して、本番ではピットの沼尻竜典さんが、中ホールの客席に向かってタクトを振っていた。
今回の課題曲は「トゥーランドット」の「誰も寝てはならぬ」、そう、アリアの途中のコーラスパートを客席が担当する。わずか4小節、とても短いし、難しくもないフレーズなので、何とかサマになる。もっとも女声の部分だからキーが高いのが問題。
会場には小学生もいっぱい、オーケストラの伴奏で歌うのは楽しいものだと思う。はじめピアノで、次にオーケストラがついての練習だったから、オーケストラの表現力も実感できたのではないかな。言わば、オペラファンを増やす草の根活動かな。この公演は17日・18日が学校向けの貸切、日曜日が一般向けの公演。
前半は、「蝶々夫人」の「ある晴れた日に」(佐藤路子)とスズキ(白根亜紀)とのデュエット、「トスカ」の「星は輝き」(松本晃)、「ボエーム」のムゼッタのワルツ(上田祥子)、そして件の「トゥーランドット」(竹内直紀)となる。二日目の公演でオペラのキャストに入っていた人たちがソロを歌う。アンサンブルのメンバーだし、図抜けた人はないが、熱演。声を張るところはともかく、ソット・ヴォーチェの明晰さに欠けるのは致し方ないところ。とりあえず、出来不出来、上手い下手は関係なくて、somethingを感じるかどうかが、ソリストたるかどうかだが。
本編オペラは予想を上回る出来でした。これは、よく練習している。アンサンブルの真骨頂が発揮されていたと思う。かなり動きの多い演出(中村敬一)で、それだけでも大変そうだが、このメンバー(Aキャスト)は2公演目とはいえ、大したものだ。終演後のカーテンコールでオーケストラ(小崎雅弘指揮の大阪センチュリー交響楽団)全員がスタンディング・オベーションという光景も珍しい。チームワークの勝利。
急遽出動となったものだから、当然原語上演だと思っていて、訳詞上演と知ったのは会場に着いてから。イタリア語の韻律に合わせて書かれた音楽との違和感を感じるところも多々あるが、ブッファで登場人物にそれぞれ勝手な台詞を配しているので、聞き取るのに訳詞も悪くはない。オペラは初めての小学生もいっぱいだから、お話がわからなければ退屈してしまうだろうし。
最前列中央、指揮者から2mも離れていない。オーケストレーションのなかに忍ばせた小さな動機も鮮明に聞こえる位置で、おもしろさも増す。ただ、声はちょっと強すぎ。
前半のアリア集では堂々と歌手の後ろにスピーカーを置いて、PAを隠そうともしていない。天井桟敷ではちょうどいいかも知れないが、最前列ではちょっと音圧が高すぎた。かと言って不自然と言うほどのこともない(このあたり、びわ湖ホールの音響担当、小野隆浩氏の「オペラと音響デザイナー」に詳しい)。
装置(増田寿子)はよくできている。衣裳(半田悦子)は子供を意識してか、ちょっとド派手という感じだが、まあ、それでも悪くはない。あんなに大勢の登場人物が動き回っていているのに、ブォーゾ爺さんの臨終の床の周りに本当に火のついた蝋燭を並べたのは、ちょっとヒヤヒヤものだった。ところで、爺さんの苗字がドナーティというのは、いったい誰の冗談かしら(donare:伊、donate:英…寄贈する)。
タイトルロールの津國直樹、ラウレッタの黒田恵美、リヌッチオの二塚直紀というメインの人物だけでなく、アンサンブル全員がのっていた感じ。こういうオペラでは、一人二人が頑張るだけでは面白くならない。押したり引いたりが必要だが、ちょっと張り切りすぎのきらいも。力を抜くところがもう少しあっていい。まあ、緩や弱のところの表情はオーケストラが受け持っていたとも言えるけど。
それにしても、これは再演しないともったいない。装置も衣装もそうだし、何よりも今回築いたアンサンブルが。青少年オペラ劇場という名を冠していても、私のようなすれた客が見ても、手抜きが一切ない。いや、"小学生以下お断り"の公演以上とさえ言える。公演スタッフの方々に敬意を表したい。