新国立劇場小劇場「ザザ」 ~ 身につまされる?
2005/3/3

気になっていたレオンカヴァッロのレアものオペラ、仕組んだ訳ではないが、うまい具合に東京出張の予定が入り、初日を観た。

このオペラは、テノールのアリアぐらいしか聴いたことがなくて、全くの初めて。国内初演ではないと思うが、レアものであることは間違いない。1947年にレンツォ・ビアンキにより編まれた短縮版での公演というが、オリジナルを聴いたことがないので、どこが違うのか判るはずもない。

各幕のインテルメッツォとして男女の道化師によるパントマイム、ピアノとトランペットで演奏される「パリアッチ」のフレーズ、順に、「衣装をつけろ」、道化芝居の触れの音楽、劇中劇の伴奏音楽という趣向です。これがオリジナルに含まれるものなのか、それとも今回の演出での挿入なのか私には判らない。おそらく後者かな。

100年前の作品なのに、あまりに現実的すぎる「純愛の女性と不倫の男性」というテーマ。それで上演が敬遠されているとのことだが、それについては、うーん、確かに…。きっと、この日、小劇場の観客の何人もの人が身に覚えがあるに違いない。

何度か小劇場オペラは観ているが、オーケストラを後ろに、舞台を前面に作ったのを観るのは初めて。前から3列目中央という位置だと、歌手とは5mも離れていない。しかも舞台はせり上がっている訳でもないので、同じ高さ。客席前方横の入口から入場するのも舞台と歌い手用の両翼モニターの間を横切って、という具合。

19:00開演ギリギリに駆け込んだときには、そこで登場人物たちが既に動き回っていた。これはザザが出演する舞台裏の風景だった。「ナクソスのアリアドネ」のプロローグみたいなものか。各幕ともこういう趣向で始まる。それに先のインテルメッツォが付くという次第。演出は恵川智美、なかなか面白い工夫だ。

このオペラ、お話は判りやすいし、音楽も悪くない。とっても楽しめた。もっと上演されてもいい作品だと思う。「パリアッチ」ほどのギラギラしたヴェリスモではなく、あれよりもかなり脂身を落とした感じがある。マスカンニならば、「カヴァレリア・ルスティカーナ」ではなく「我が友フリッツ」に相当するというところか。

主役3人の出来が大変に充実していた。題名役の森田雅美、これまでに聴いた記憶はないが、立派な声と演技。最初の舞台裏のシーンでは人がいっぱいで、どれがザザなのか判らないが、彼女が登場し歌い出すと、「あっ、主役の声」とすぐに判る。東京には才能のある人がいっぱいいる。

ザザの相手役ミーリオの樋口達哉、しばらく聴かないうちに進境著しいものがある。高音の不安が薄らいだし、イタリア語もずっとクリアになった。まだまだ、成長の余地はあるが、歌に加わった陰影も以前には聴かれなかったものだ。

ザザの友人というかモト彼カスカールを歌った今尾滋、昨年末の大阪での「サムソンとデリラ」で注目したバリトン。この人はいい。声に色気がある。大阪ではあまり気付かなかったのだが、バリトンの主声域だけでなく高音の美しさに魅力がある。いま国内のバリトンでは私の一押しかな。

その他のキャストも好演。珍しい作品だけに、細かな演出だけに、かなりの時間を割いて練り上げたプロダクションだと思う。東京のともだちによれば、今シーズンの新国立劇場のオペラはアタリとハズレが交互ということだが、今回はアタリの順番だったよう。

面白かったのはザザが不倫相手の家に乗り込んで、そこで恋人の女児と遭遇するシーン。ザザは歌い、こどもは台詞、かたやイタリア語、かたや日本語、これがけっこうサマになっているから不思議。最後にザザに求められて娘がピアノを弾く、それにオーケストラも和して、ザザの歌がのっかる。亀井奈緒という子役、登場のときの表情や仕草から始まって、なかなかの芸達者だった。

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