大植英次/大阪フィル定期「マーラー第6交響曲」 ~ 二年の熟成
2005/3/18

公演のチラシ

二年前、大阪勤務に戻ったときが、ちょうど大植監督就任のとき。早速、定期会員になり、以来、上昇機運のオーケストラを聴く楽しみを味わっている。経済面だけではなく、クラシック音楽の世界でも大阪の地盤沈下は著しいものがあるが、もし、大植英次がいなかったら、いったいどうなっていたことやら。

就任後初の定期演奏会がマーラーの第2交響曲、そして二年目のシーズンの最後が第6交響曲。その間のオーケストラの進境は著しいものがある。就任当初は指揮者もオーケストラも意欲が空回りする場面も目立ったが、今や両者には阿吽の呼吸が生まれている。言っちゃいかんが、一週間前の上野のオーケストラとは大違いだ。

得てして間延びしがちな中間のスケルツォ楽章、緩徐楽章も、危なげなく持ちこたえるソリストのレベルアップ。第1楽章の提示部から展開部に移るところの各パートの絶妙の受け渡し、コーダ部分の凄まじいテンポの揺らしかた。ヴァイオリンとホルンの掛け合いのところは、ちょっと綻びが見えたような気がしたが、まあ小さな傷だ。そして、終楽章のエネルギッシュなこと。強奏にも何段階かの階段が用意されていて、ちっともやかましく感じない。飽くことのないクライマックスの追求。

「悲劇的」とも呼ばれる曲だけど、今日の演奏にはそういう印象はない。標題を感じることはなく、純器楽的な面白さ、大変によく書けたオーケストラ作品を聴く歓びがある。先のチャリティコンサートのワーグナーでも感じたのと同様、狂気や毒を含んだマーラーではなく、ずっと健康的なマーラーかな。そんな個性の演奏だった。

明後日はサントリーホールでの東京公演、そして筑波での公演と続く。いよいよ大植英次/大阪フィルが首都圏にお目見えとなる。さて、どんな反応があるか、とても楽しみだ。なお、今夜はNHKのテレビカメラが入っていた。いつ放映されるのか判らないが、大阪ローカルでなければ他地域の人にも視聴してもらいたいものだ。

このシンフォニーを前に聴いたのは横浜みなとみらいでの都響演奏会、名演、ワールドカップ決勝戦の日のマチネだった。指揮台には音楽監督ガリー・ベルティーニが立っていた。あれから、かれこれ三年、同じマーラーの第6交響曲を聴いた日にその人の訃報が届くとは…

     * * *
(2005/3/23追記) 大植英次/大阪フィルの二年 ~ 私のベスト5

今回の東京・つくば遠征のおかげで、首都圏の方々からも大植英次/大阪フィルへの反応があり、奈良在住の私としても嬉しい限りです。二年前に、東京から関西に戻ったころは、掲示板にも関西の書き込みはほとんど見かけなかったのですが、しつこく書いているうちに、ぼちぼちとお仲間が増えてきました。演奏の評価は人それぞれで、絶対のものなどないと思いますし、それはそれで面白いところです。

さて、この公演の感想とは離れるかもしれませんが、新音楽監督就任以来、わりと真面目にこのコンビのコンサートに通った私なりのベストは次のようなものです。

1.プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第1番(2005/2/24)
 急遽開催されたチャリティコンサートだった。ヒラリー・ハーンのヴァイオリンには息を呑んだ。オーケストラのサポートも秀逸。

2.ショスタコーヴィチ:交響曲第7番「レニングラード」(2004/2/13)
 つまらない曲と思っていたイメージを吹き飛ばすような、新生大阪フィルの到達点を感じさせてくれた演奏だった。

3.サン=サーンス:歌劇「サムソンとデリラ」(2004/12/9・10)
 オペラはどうなのかなと思ったけど、杞憂。大植さんは舞台の上の全ての責任をとれる人だと認識。二日目の福井敬さんは正に絶唱。

4.マーラー:交響曲第6番(2005/3/18)
 今回の公演。これをベストとしても全く違和感はないが、その時の個人的な感銘度で序列するとこのあたりかな。

5.ベルリオーズ:幻想交響曲(2003/9/18)
 阪神優勝の直後、この日のソリスト小川典子さんはタイガースドレスというサービスぶり。幻想交響曲に新コンビの確かな手応えあり。

次点.ドボルザーク:「スラブ舞曲」全曲(2003/9/12)
諳譜はともかく、よく曲の順を間違えないものと感心。幻想交響曲と同時期のいずみホール。このころが飛翔の始まりだっかな。

音楽監督だから当たり前と言ってしまえばそのとおりだが、採り上げる作品が多彩。普通だったらパスするようなプログラムでも、このコンビだと聴きに行ってみようという気になるのが不思議。前監督ほど長くやってほしいとは思わないけど、大植さんにはあと10年ぐらいは大阪に本拠を置いてほしい気がする。さて、この週末は「四季」とベートーヴェンの第4交響曲、これも他の演奏者だったら見向きもしないプログラムですが、もちろん、行く。

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