チンツィア・フォルテ@大阪フェスティバルホール ~ 生身のコロラトゥーラ
2005/4/26

第47回大阪国際フェスティバル最終日の26日に公演を予定していました「ステファニア・ボンファデッリ オペラ・アリア」は、ボンファデッリが急病で来日できなくなったため、代わってイタリアのソプラノ歌手、チンツィア・フォルテによる「オペラ・アリア」に変更させていただいただきます。何卒ご了承くださいますようお願い申し上げます。

というのが大阪国際フェスティバル協会からのアナウンス、つい最近のこと。単発のリサイタルならキャンセルで終わりなんだろうが、フェスティバルに組み込まれたものだけに、ピンチヒッターを立てたのだろう。当日でも払い戻しに応じるということだったが、私はそのままチケットをキープ、しっかり聴いてきた。

広上淳一指揮でボンファデッリと言えば、悪夢のような「トラヴィアータ」を思い出してしまうので、チケットを買うときもおっかなびっくりだったし、リスクヘッジの3000円の最安席だったので、歌手変更でもショックはない。

この人フォルテの歌は2年前に新国立劇場の「ルチア」で聴いている。今日もそのときの印象と変わらない。"生身のコロラトゥーラ"とでも言おうか。
 完璧なテクニックで圧倒するわけでもないし、成層圏に達するような破壊的な高音の威力があるわけでもない。なぜかそれでも、好感を持ってしまうのは、カヴァティーナのしっとりとした情感に得難いものがあるからだ。サイボーグのような人間業とは思えない歌とは対極にある。グルベローヴァや佐藤美枝子も大好きだけと、全然違うフォルテも悪くない。

ドニゼッティ「ドン・パスクアーレ」序曲
 ドニゼッティ「ドン・パスクアーレ」~「私も不思議な力を知っている」
 モーツァルト「コシ・ファン・トゥッテ」~「女も15になれば」
 ドニゼッティ「連隊の娘」~「さようなら」
 ドニゼッティ「ルチア」~「香炉はくゆり」
  * * *
 プッチーニ「ジャンニ・スキッキ」~「私のおとうさん」
 プッチーニ「マノン・レスコー」間奏曲
 ベッリーニ「夢遊病の女」~「花よお前がこんなに早く萎れるとは」
    …「思いもよらないこの喜び」
 ヴェルディ「トラヴィアータ」前奏曲
 ヴェルディ「トラヴィアータ」~「ああ、そはかの人か」…「花から花へ」
  * * *
 グノー「ロミオとジュリエット」~「私は夢に生きたい.」
 ドニゼッティ「シャムニーのリンダ」~「この心の光」

今日のプログラムでは、「連隊の娘」、フランス語の歌が一番よかったというのも変だが、でも、そうなのだ。もうひとつ、これと双子の姉妹のような「夢遊病の女」のカヴァティーナ、彼女に合った歌は同じようなタイプになってしまうのだろう。

最初の「ドン・パスクアーレ」では、エンジンがかかっていなかった。中音域の音色がややまだら模様、あれっ、こんな声だったかなと。
 モーツァルト、ドニゼッティと続くうちに音色も安定した。それが「連隊の娘」。ほんとうに悲しい気持ちが伝わる歌というのも変だが、感情表現よりも、得てして音楽の美観に気を取られることの多いコロラトゥーラソプラノの歌とは一線を画すところがある。逆に言えば、同じ土俵で勝負しても始まらないと、彼女は自覚しているのかも知れない。

代役となったボンファデッリに引けを取らない美人だが、どことなく親しみの持てる容貌だ。近づきがたい雰囲気はない。2階席にいた女子高生の一群が、アンコールのとき客席からみんなで手を振っていて、フォルテがそれに応えると「ひゃーあっ」と一斉に歓声。大阪らしいところだ。それも彼女の雰囲気がなせる業かも。

完璧だった、圧倒された、という表現は出てこないアリアの連続だが、聴いていて心和むところがある不思議な人だ。2日前のネトレプコと、そこがだいぶん違う。

さて、問題の広上淳一指揮の京都市交響楽団。これが予想に反して歌をしっかりサポートしていた。指揮者と歌手の距離が近いこともあるだろう。歌の呼吸が判る近さだから。ここぞとオーケストラを鳴らしたがるところはあるが、歌の邪魔をする訳でもない。フォルテの声は名前と違って小さめだが、オーケストラに消される声質ではないし。

オーケストラピースでは、これまでにも共演しているとは言え、呼吸がぴったりとは行かない。緩急・強弱を意図したように実現できてはいないと思う。何かしようとするところはことごとく美観が損なわれる。

プログラム最後の「トラヴィアータ」、カバレッタの最後を煽ってプツッと切ってしまうやり方は、本人はかっこいいと思っているのかも知れないが、音楽がとても下品になる。
 画竜点睛を欠く、最後に残念なこと。独りよがりの悪癖がアンコールにも尾を引いて、オーケストラは歌い手を置いてけぼりにして暴走気味。いやな記憶が蘇りそうになった。シンフォニーのときには、こんなぞんざいな振り方をする人ではないと思うのだが…

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