大植英次/大阪フィル@いずみホール ~ シリーズ再開をことほぐ
2005/4/30

昨年度は中止となった「いずみホールコンサートシリーズ」、第9回として再開された。定期演奏会のシンフォニーホールに比べるとキャパは半分、800人のホールでこのコンビを聴く贅沢。プログラムも、完全にこのホールを念頭に置いた内容になっている。

ラヴェル:組曲「マ・メール・ロワ」
 モーツァルト:オーボエ協奏曲
    モーリス・ブルグ(オーボエ)
 R.シュトラウス:組曲「町人貴族」

開演時、舞台の上には弦楽器奏者だけ、登場した大植さん、いつもは最後にあるスピーチが今日は最初から。「月曜日、大きな事故があり、大勢の方がお亡くなりになりました。このいずみホールのレセプショニストの方も。ご冥福を祈り、"G線上のアリア"を演奏します」

スピーチで言及された人は、私と同じ会社に勤務する人の妹さんだ。開演前、支配人とお話していたら、10時の始業時間になっても出勤していないので、どうしたのかと思っていたら、件の事故の知らせ…。マンションに巻き付いた二両目に乗車されていたらしい。奇禍としか言いようがない。こうして、生きて、美しい音楽を聴けるというのは、何とありがたいことか…

前回の新年度スタートの定期演奏会は、今ひとつの出来。あのときはNHKのカメラが回っていたが、収録するなら断然こっちだろう。
 マーラーやオペラの一曲プロは別として、これだけ穴のない演奏が揃ったプログラムは、ちょっと記憶にない。わずか800人だけが得をしてしまったわけで…ほんと、もったいない。

ラヴェルの第3曲以降の緊密なアンサンブル、響きの美しさ。モーツァルトのソロの水際だった演奏と、バックのオーケストラの覇気。大植さんのコンチェルトはいつも聴きものだ。伴奏という世界ではない。二曲目のコンチェルトはおやすみの時間というのが常の私だけど、このコンビを聴きだしてから、休憩前の曲から目(耳)が離せない。暗譜で演奏する指揮者でもで、コンチェルトはスコアを広げてということが多いのに、大植さんの場合は間に何も立っていないから、オーケストラも気が抜けないだろう。

今日もコンサートマスターは長原幸太さん。"提琴小僧"という感じだなあ。いつも嬉々として弾いている。パートが休止のときも、オーケストラの音に耳を傾けているのがよく判る。彼がこの位置に座るときには、大阪フィルの音が格段に若々しくなる。

プログラム後半の「町人貴族」は、長原さんが大活躍、と言うよりも小編成のオーケストラの各奏者がソリストとしての技量を要求される大変な曲だ。弦楽器は4-2-4-4-2という変則的な構成、第1プルトは譜面台が二つなので、それぞれソロパートがある。弦の組合せもいろいろなバリエーションが。こういうのは視覚が加わらないと面白さが解りにくい。

「町人貴族」と「ナクソスのアリアドネ」をセットにした演奏は、東京と何年かおいて大阪で、若杉弘さんが採り上げたのを聴いたことがある。確か、どちらも釜洞祐子さんがツェルビネッタを歌ったはず。そのときの前半の音楽がこの組曲の中に含まれるのだろうが、記憶が定かではない。後半のオペラの印象が強くて。

こんなに面白い音楽だったのか、という感じ。へえーっ、大阪フィルの個々の奏者がとっても上手くなったんだ。マーラーのような大曲よりも、こんな多数のソロ楽器の複雑精緻なアンサンブルで初めてわかる進境の著しさ。
 全9曲、どれも身を乗り出して聴いていたが、なかでも、第4曲「仕立屋の登場と踊り」が圧巻。ソロヴァイオリンが縦横無尽に活躍する曲です。

"準"定期演奏会にしては珍しく、最後にアンコールがあった。それは、この第4曲。複雑なシュトラウスのオーケストレーションだが、大植さんはアンコールではわずかのキューを出すだけで、オーケストラに任せて指揮台で悠然としている。「どうです、すごいオーケストラでしょ」とでも言いたげ。提琴小僧への信頼が篤いということだろう。

2月末以来、続けさまに5つのコンサートを聴いたこのコンビ、次は9月のマーラーの第3交響曲までお預けです。そう、その間には、いよいよバイロイトへのデビューが。
 先日、配られていた大阪国際フェスティバル協会のチラシ、バイロイト追っかけツアーが企画されているようだ。7/28~8/7の11日間、7/31から5日連続の鑑賞、なかなかのラインアップだ。
   7/31 「トリスタンとイゾルデ」 大植英次
   8/1  「ローエングリン」 ペーター・シュナイダー
   8/2  「さまよえるオランダ人」 マルク・アルブレヒト
   8/3  「タンホイザー」 クリスティアン・ティーレマン
   8/4  「パルジファル」 ピエール・ブーレーズ
 チケット込みで80万円弱、高いのやら安いのやら。お金と暇、あっ、そうそう、あと忍耐力があれば、お奨めかな。

ジャンルのトップメニューに戻る
inserted by FC2 system