フェニーチェ歌劇場来日公演「アッティラ」 ~ 欲を言えばきりがないが
2005/5/7

びわ湖ホールでこのオペラを観るのは、私は2度目、今日の聴衆にはそういう人がかなりいるはず。さすがに3度目の人は少ないと思うが…。と言うのも、2001年秋、ここで「アッティラ」の本邦初演(2公演)が行われたからだ。
 今回のフェニーチェ歌劇場来日公演、ヴェネツィアゆかりの作品で、上演歴のある大津からスタートするのも因縁か。ここは、ヴェネツィアと似通った水都。
 今年は例年以上に、大津駅から湖に向かう緩い坂を下ることが増えそうだ。徒歩15~20分、ちょっと長いアプローチだが、この道は楽しい。足の便はいいとは言えないが、オペラを観るハレの気分が高まる。

さて、この日の公演、アッティラとオダベッラの主役二人を聴くことが主眼だとすれば、まあ満足、そうじゃなくて、オペラをトータルで楽しむことが優先するなら、ちょっとねえ、という私の評価だ。

ジョルジョ・スーリアンのアッティラは生真面目な歌唱と言えると思います。好き嫌いの分かれる声かも知れないが、私は肯定的。やや硬い声で、フン族の王の強面ぶりが前面に出るのはいいが、ちょっとその面ばかりで単調のきらいもある。強面と裏腹の弱さ、心理の陰影を明らかにする歌唱とは距離がある。まあ、この時代のヴェルディ作品の台本や音楽がその域に達していないこともあるので、欠点とも言えない。

このオペラは、プロローグでのオダベッラのアリアの出来如何で、全体の成否が分かれると言って過言でない。まさに超絶的なパワーとテクニックを要求される歌だ。ディミトラ・テオドッシュウが歌うなら、初回満塁ホームランで左うちわの試合展開かと思いきや、フェンスにあたって二塁打、後続があえなく凡退という感じだった。
 声の力は充分、カヴァティーナはそれでよかったのだが、カバレッタになってバックに足をすくわれた感じ。この役には強さと軽やかさを併せ持つ声が必要で、後者については、彼女、分が悪い。それを踏まえて適切なテンポを採ればいいのに、指揮者マウリツィオ・ベニーニは飛ばしたがる傾向が顕著。大型車(重戦車?)がコーナーを回りきれない印象があった。

この指揮者の型にはまった快速ぶりは、他の場面でも同様、アッティラのジョルジョ・スーリアンはしっかり食らいついていましたが、他のソリストやコーラスではちょっとあやしいところも随所に。間延びするよりはマシだが、ワンパターンのハイスピードも五十歩百歩かなあ。

かと思えば、第3幕のフォレストのロマンツァの後半で見せた紋切り型のテンポアップ、初め遅すぎ、最後速すぎ、見え透いた効果追求で、隣席の友人「田舎くさいなあ」とバッサリ。全く同感。これもフォレスト役のカルーディ・カルードフの歌唱力の無さにもよる。

このテノール、登場したときは軽めのリリコかなと思いましたが、第3幕あたりでは結構声も出るし印象が変わった。ただ、残念ながら、のっぺりと平板な歌唱は変化がない。

問題外だったのはエツィオ役のパオロ・ガヴァネッリ、劇場復活を記念する来日公演に連れて来るのが、この程度のバリトンか。たががはずれたような歌い方、声はスカスカ、二重唱ではがなり立てるような歌、第2幕のアリアは歌い手を得れば魅力的な歌だと思うのに、いたずらに長いと感じるばかり。

うーん、こうなってくると、かなりボロクソ気味の評価で、急逝したマルチェロ・ヴィオッティが指揮台に立っていれば違ったのかも知れないが、代役のベニーニは前述の通りだし、オーケストラもトリエステよりは数段上とは言え、ミラノやボローニャには遠く及ばない。コーラスも雰囲気はあっても、輪郭がぼやけるし、下手な人が混じっているのが判る。

そして訳のわからない演出・装置(ワルター・レ・モーリ)。ちぎれた緞帳が舞台右半分だけを覆う。上手には木製のコンテナ状のものが積み重ねられている。あれは何。他の装置は至ってシンプルなもの。
 「舞台装置には焼失したフェニーチェ歌劇場の外壁や緞帳を再現し、この歌劇場へのオマージュと伝統を感じさせる舞台となっている」とはチラシの文言だが、それで、どうなの、ということ。何のインスピレーションも感じないのだから困ったものだ。
 終幕に至っては、装置の隙間から徐々に煙が吹き出してくる。他の幕で本火を使っていたから、ひょっとして、何か裏でくすぶっているのではと心配した。まさか、旧劇場の焼失をイメージさせるためのものではないと思うが…

この「アッティラ」を観て、このホールでの本邦初演がなかなかいい線を行っていたことを再認識した。アッティラとオダベッラは流石でしたが、他のキャストはどっこいどっこいか、邦人キャストのほうが良かったかも。そして指揮、オーケストラ、コーラス、演出、装置は、間違いなく4年前のほうに軍配が上がると思う。

高いチケットを買ったからには、それなりのリターンを求めて当然、したがって厳しい言い方にもなる。メインキャストだけ呼んで国内勢で上演した方が、実りあることが多いかも知れない。引越公演に値する歌劇場はそんなに多くない。
 とか何とか言いながら、明日も大津へ。これも4年前、藤原歌劇団の「マクベス」で佐野成宏に代わり歌った中島康晴、彼を聴くのはそのとき以来だ。あれからどれだけ飛躍しているか、楽しみ。

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